学部屋2

 ここは,「おまけ」のページの続きです。本来のテーマからは少し外れて,元教師のペンネーム「むしょく」さんの私見を発信します。ネタは高校の学びの発展で,「生物雑談」を独立させたものです。このホームページのテーマの「自然を感じる」から,「自然現象について考えてみよう。」という感じになります。自由な発想を楽しんでください。なお,長期にわたる作業中となることをご容赦ください。


Ⅼ10 生物雑談


Ⅼ10-1 ツマグロヒョウモンの擬態と蛹の色
Ⅼ10-2 サツマイモの塊根,地面から脱出する(2021年7月10日更新)
Ⅼ10-3 コロナ禍を学びの糧にしよう (2023年5月3日更新)
Ⅼ10-4 アケビの仲間の花形成をABCモデルで説明してみよう
Ⅼ10-5 ヤマノイモの不思議を楽しもう
Ⅼ10-6 ヤブカンゾウの秘密を探ってみよう
Ⅼ10-7 テッポウユリのむかご?木子(きご)?について(2023年1月14日更新)

 1 テッポウユリのむかご?木子(きご)?との出会い
 2 テッポウユリのむかご?木子(きご)?のその後
 3 2023年(3年目)の成長の記録
Ⅼ10-8 タンポポを調べてみよう
Ⅼ10-9 オオバコを観察してみよう




Ⅼ10-1 ツマグロヒョウモンの擬態と蛹の色

 

 ツマグロヒョウモンは我が家では「仕上げ虫」と呼ばれています。つれあいの趣味で毎年植えるビオラやパンジーに春の終わり頃必ずメスがやってきて産卵をし,孵化した幼虫が殆どのビオラとパンジーを食べ尽くしてしまうからです。我が家ではツマグロヒョウモンの幼虫は食べ放題ですが,ネットでは駆除が話題になっています。今回はツマグロヒョウモンをネタに「擬態」について考えてみます。
ここでいう「擬態」とは,その生物が周囲の環境にあるものや背景,他の生物に似ることです。しかし,生物の世界で「擬態」が議論されるときには,似ていることが生存に何らかの有利をもたらす適応として使用されているようです。

 ウィキペディアよりツマグロヒョウモンの説明を引用します。
 雌は前翅の先端部表面が黒(黒紫)色地で白い帯が横断し、ほぼ全面に黒色の斑点が散る。翅の裏は薄い黄褐色の地にやや濃い黄褐色の斑点があるが、表の白帯に対応した部分はやはり白帯となる。また前翅の根元側の地色はピンクである。全体に鮮やかで目立つ色合いだが、これは有毒のチョウ・カバマダラに擬態しているとされ、優雅にひらひらと舞う飛び方も同種に似る。ただしカバマダラは日本では迷蝶であり、まれに飛来して偶発的に繁殖するだけである。南西諸島ではその出現はまれでないが、本土では非常に珍しい。つまり、日本国内においては擬態のモデル種と常に一緒に見られる場所はなく、擬態として機能していない可能性がある

 毒をもつカバマダラ雌雄とツマグロヒョウモン雌及びメスアカムラサキ雌は素人目にはよく似ています。共に雌のみに擬態がみられることから,何か特別な意味があるかのような議論がなされています。「どうして,雌だけなの?」皆さんも考えてみてください。私にもわかりませんが,「片一方だけなら,雄だけより雌だけでしょ。」というような意見があるようです。しかし,私は何か他の視点での解答がありそうな気がしています。
次の課題が,日本におけるツマグロヒョウモンとカバマダラの分布域の不一致です。ウィキペデアの指摘のように 日本本土の大分部ではカバマダラを鳥が食べることはなさそうです。
福岡県のスズメはカバマダラを見たことがないでしょう。しかし,福岡市で子育て中のツバメはどうでしょうか。ツバメは夏鳥で,カバマダラの分布域を通過して各地にやってきます。ツバメが中型の蝶を捕食するかどうかは存じあげませんが,少なくともであったことはあるのではないかと思います。もし,ツバメが中型の蝶まで捕食するとすれば,飛ぶのが遅いとされるカバマダラを一度は食べているのではないかと想像します。ツバメがどれ程の大きさの昆虫まで捕食しているかはわかりませんのでこれ以上ツバメで議論するのは止めます。一般的に考えますと,中型の蝶を捕食する夏鳥のグループは必ず存在していると思われます。これをAグループと名付けましょう。Aグループは,カバマダラの暮らしている地域から,ツマグロヒョウモンの繁殖している時期に日本本土に来ることになります。Aグループの鳥は一定の割合でカバマダラを食べて痛い目にあっていると考えられます。鳥には当然学習能力があります。では,もう一度ウィキペデアの説明を読んでください。蝶だけの分布域だけを論拠にこの両種の擬態に関して決論をだすのはやや危険な気がしませんか。
(皆さん,この反論に反論してみましょう。私の頭の中にも,別の視点からの意見があります。)

 次は幼虫です。毛虫そっくりですが,毒はないと言われています。これも擬態の例とされています。毛虫がすべて毒をもっている訳ではありませんが,イラガなどに一度やられた経験のある哺乳類には有効な気がします。

 蛹はどうでしょうか。私は今回初めてツマグロヒョウモンの蛹に褐色系があることを認識しました。ネットで調べてみると,別に珍しいことでないことがわかります。今までの私の認識では,ツマグロヒョウモンの蛹は黒で,背側にある銀色に光る突起が強く印象に残っていました。アゲハでは,環境要因と蛹の色の関係がよく調べられているのは耳にしていました。ツマグロヒョウモンではどうだろうかと思い,調べてみましたが納得がいくものは見つけられませんでした。しかし,写真でもわかるように蛹は見事に環境に溶け込んでいます。何か蛹化の時に環境認識システムがありそうですね。野外で生物を観察する重要性を再認識しました。

 最後は,遊びです。ゲームの戦闘力のように,ツマグロヒョウモンのそれぞれのステージの擬態を点数化してみましょう。最も生存に有効な擬態を10点とすることにします。私の評価を参考までに載せます。皆さんはどうですかね。

          むしょく
 幼虫         5
 蛹          8
 羽化直後       8
 成虫の雌の羽     4

<追記>2020年11月11日
 活動報告の「八女の自然に親しむ会」のコーナーでも報告していますが,2020年11月8日にカバマダラとツマグロヒョウモン雌を同じ空間で確認することができました。勿論,カバマダラは迷蝶です。両種の擬態で問題になるのが,国内では殆ど同一空間に存在していないことです。しかし,近年はカバマダラが次第に九州の南部まで分布域を拡大し,本年は福岡や周辺の県でも確認されているようです。中型の蝶を捕食する鳥の中で,今までは夏鳥の一部以外はカバマダラを捕食した経験がありませんでしたが,カバマダラが飛来して繁殖に成功した柳川市のような場所では在来の鳥も捕食体験をもつ個体が増加します。カバマダラの北上がどの程度まで進むかは予想ができませんが,隣接の地域や飛来頻度が高い地域ではカバマダラを捕食した体験をもつ鳥の割合が確実に増加していくことが推察されます。しかし,これらの地域でも,毒を持たないツマグロヒョウモン雌の生存率や繁殖成功率がどの程度向上するかは未知数です



ページ先頭へ

Ⅼ10-2 サツマイモの塊根,地面から脱出する

 

 我が家では昨年(2019年)よりサツマイモを栽培しています。これは,発芽実験に使用したものを庭の片隅及びプランタに植えたのが始まりです。十分な畑は作れませんので,芋には期待できませんが,私は俗にいう芋の茎(葉柄)が大好きなのでそれで十分です。畑のような場所は掘り返して芋を取り出せますが,その他の部分では見落としもあります。案の定,プランタの中に子芋が2個残っていました。今年はこれらを使用すればいいと思いながら観察を続けていましたが,一向に発芽してきませんでした。市場には,サツマイモの蔓が出回ってそれなりの時間が経っています。友人に相談すると,サツマイモは南の方の作物なのである程度以上の温度が必要で,今市場に出ているのは温度調節して発芽させたものだとのことでした。また,芋が日光に当たる必要があるかもしれないとのことでした。そこで,大きい方の芋を掘り出して容器に入れて窓際に置き,もう1つは芋の上部に光が当たるようにしてプランタの中にそのままにしました。初めは気にかけていましたが,中々発芽しないなと思っていたら,プランタの中の芋から葉が出ているのに気づき写真を撮りました。写真は概ね奥が南側です。観察目的ではなかったので最初の状態の写真はありません。今改めて写真を見直すと,随分地面から飛び出しています。その時は全く気がつかなかったのですが,すでに脱出劇が始まっていたようです。こんなに飛び出した芋を収穫のときに見逃すはずはないでしょう。更に推測すると,芋がまだプランタの中に残っていることに気がついた時には,脱出劇の序章が始まっていたように思われます。
 それでは,この脱出劇がどのように進行したか考えてみましょう。植物ですから,この脱出劇は成長運動です。きちんとした連続写真がないので,殆ど推察になります。もちろん,答えは私もわかりません。写真で気にかかるのは,塊根の細長い部分です。元の状態は確認できませんのでわかりませんが,少なくとも地下に埋もれていた部分が成長したことは間違いがありません。地下部分の成長を調べることは困難ですが,このひょろ長いしっぽ構造は容器で栽培中のものにもあり,末端近くから発根していました。意味がありそうですね。

 最後は,まじめな問題です。
 太郎君は,木の成長を調べようと気の長い観察をした。裏山に植樹された地上5mの杉の木の地上1mの高さに印を付け,その印の高さがどのように変化していくかを観察した。数年後,木は地上10mに成長していたが,印の高さはどのように変化したと考えられるか。その理由も答えなさい。

(正解) 変化しない。理由は,地上1mの杉の木の細胞には,横方向の成長(肥大成長)をおこなう細胞はあるが,縦方向の成長を行う細胞(伸長成長)は存在しないので。

 果たしてそうなりますかね?

<追記>2021年6月24日
 2匹目のドジョウを待っていた訳でもありませんが,この冬はサツマイモの芋は掘らずにそのままにしていました。久留米市でサツマイモが越冬するほど地球温暖化は進んでいるのかというテーマになるかもしれないとも考えました。しかし,この冬の寒さには耐えることができなかったようで,現時点までに芽生えがありませんので,取り敢えず第1回目は終了することになりました。
ここで問題を整理しておきます。そもそも,サツマイモの塊根が地面から脱出することが,本来原産地とされる地方で普通にあることでしょうか。情報を収集する必要があります。これが,全くの偶然な出来事であるとすれば,これ以上を実験栽培にチャレンジしても無駄なことになります。そこで,この2つのシーズンで観察したことは普通に起こる現状だと考え,希望的な仮説を以下のように建ててみることにします。

 仮説「収穫されずに地中に残ったサツマイモの塊根は,いくつかの条件があれば翌年に地上部まで顔を出すことがある。」

 経過をまとめてみると,2020年6月にプランタで成長を始めたサツマイモの塊根は気がつくと地面から飛び出していました。この現象に再現性を確かめる目的で,室内で栽培していた発芽していた塊根を7月にプランタに移植しましたが,脱出劇は見られませんでした。秋の収穫は地上部のみにして,観察を継続しましたが,2021年の冬(前年12月から)は寒さが酷しかったためか地下の栄養体はすべて枯死したと思われます。
そこで,気象庁のホームページで久留米市の気象データを調べてみました。

年月
(月-年)
平均気温(℃) 平年の
平均気温(℃)
最高気温(℃) 最低気温(℃) 日平均気温0℃未満日数(日) 日最低気温0℃未満日数
(日)
2-21 9.3
6.9
23.0
-2.3
1-21 6.1
5.6
18.5
-5.0
12-20 7.1
7.7
16.8
-2.0
2-20 8.7
6.9
21.0
-1.1
1-20 8.5
5.6
18.3
-1.1
12-19 9.1
7.7
19.1
0.6

 

 表は久留米市の2つの冬シーズンの気象データを抜粋したものです。2020年の冬(前年12月から)は暖冬であったことがわかります。最低気温が氷点下になった日も単発の3回です。2021年の冬も月の平均気温だけからは,著しく寒い冬であったとはいえません。しかし,問題は12月中旬から波状的にやってきた寒波です。中でも強烈だったのが1月の4日連続した最低気温が氷点下になった時です。雪がつもりその内2日は平均気温も氷点下になってしまいました。この影響を受けてビニールで囲っていたトケイソウ,勝手に発芽して数年成長続けていたアボガドはともに枯死しました。やはり,雪が残り氷点下の日が続くということは,南方系の植物には強烈なダメージだったようです。地球温暖化では,全体的には暖かになるというイメージがありますが,よく言われているように寒暖の差が大きくなることを思い知らされた冬でした。
 気象データと観察の結果とに関連があると思われますので,2020年の冬シーズン以上の気象条件では,サツマイモの塊根が地中で越冬できるのではないかと考えられます。要は,サツマイモの塊根が再び脱出劇を演じてくれるかですね。チャンスがあれば,再挑戦してみようと思っています。



ページ先頭へ

Ⅼ10-3 コロナ禍を学びの糧にしよう

 新型コロナウイルスによるパンデミックは一向に衰える気配をみせません。私たちにできることは予防に努める他ありません。しかし,この禍から多くのことを学ぶこともできます。ホームページの特徴上,政治的・予防医学的な内容は割愛します。なお,以下のアニメーションは英語ですが,画像は大変わかりやすいと思いますので紹介します。
COVID-19アニメーション:コロナウイルスに感染したらどうなりますか?

⑴ 移動平均でデータを眺める癖をつけよう
 毎日新規感染者の数が発表されています。私自身も前日に比べて増えたのか,それとも減っているのかが気になります。しかし,前日と比較しても検査数などが同じ条件ではありませんので,科学的には意味がありません。検査には,多少政治的な思惑や曜日や日程の都合などが含まれている可能性があります。また,どのような情報が発信されているかどうかも不明です。この秘密のベールに包まれたデータをより客観的に捉える方法として,私は移動平均をお薦めします。移動平均で最も簡単なのは単純移動平均です。これは,一定個数のデータの単純な平均です。今回の場合,曜日によって検査の状況が異なることが多い様子なので,新規感染者数の7日移動平均を使用するのをお薦めします。データは,データ提供JX通信社/FASTALERTと記載された,以下のアドレスのデータを使用しました。
https://hazard.yahoo.co.jp/article/20200207

⑵ 新規感染者数の7日移動平均のグラフからわかることは・・・
 新規感染者数の7日移動平均をとり,グラフにしてみると明らかな2つのピークがあります。最初の山の最大値は720人で,第二の山の最大値は1605人です。どちらが多いですかと質問されたら,答えは一見明瞭な気がします。しかし,同じ方法で検査されていないとまでは言えませんが,検査数がかなり異なっているので一概には決論を出せません。それは,無症状の人が少なからずいるからです。最初の山の時はそこまでは接触者が十分には検査されていないような感じです。そこで横軸の日数に着目してみましょう。これは,第二の山の方が,明らかに期間が長いようです。データの取り方が多少異なっても,第二の山の方が大きいと考えていいのではないかと思います。また,他の資料では,重傷者数や死者数は逆に第二の山の時が少ないようです。これらの一連のデータを概ね現実を反映しているものとして捉えると,新型コロナウイルスは少しずつ弱毒化していることになります。
 一般に,毒性の高いウイルスは次第に弱毒化していくと言われています。ウイルスや細菌などの病原体が,強力すぎて宿主を直ぐに殺してしまうと,自分自身も他の宿主に感染できないので大変不都合です。最低限他の宿主に感染するまでは生きていてくれるのが望ましいのです。この理論の論拠としてよく紹介されているのがオーストラリアで導入された移入種のウサギを殺すウイルスです。初めは大変効果を発揮しましたが,やがて,ウイルスに弱毒化した変異が現れたそうです。専門家に尋ねるとこのような例を複数紹介してくれると思います。しかし,WHOは,新型コロナウイルスが弱毒化している科学的な根拠は今のところないと言っています。ウイルスは弱毒化していくという一般論が,新型コロナウイルスのケースに当てはまるという保証はないという意味でWHOの主張は正しいです。今までのコロナウイルスの感染は,春から夏にかけて減少するのが一般的です。私も夏には減少すると信じていました。しかし,ご覧の通りです。何がどのように違うのかを注意深く見守っていく必要があります。

⑶ 正しく恐れ,行動しよう
 今後のことを正確に予測することは誰にもできません。しかし,素直に予測すると,新型コロナウイルスは弱毒化しながら感染力を増し,再び感染者数が増加する確率が高そうです。第3のピークでは感染者の死亡率は減少しているでしょうが,感染者数は増加するでしょう。感染者数が日本の医療機関の対応能力以内に留まることを祈るのみです。勿論,全国の医療機関がインフルエンザとの兼ね合いをどうするのかなどの対策の準備に入っているそうです。
 日本は欧米の国と比べると死者数は明らかに少ないようです。この要因としては,生活習慣の違いや医療機関の能力と努力があげられていますが,私も多くの皆さんと一緒で,これらだけで説明するのは無理があると思います。何か解明されていない要素が存在しているでしょう。しかし,この要因の解明はそう簡単ではないでしょうし,私たちが参加できるレベルでもないでしょう。できることは何か。一人一人が新コロナ情勢を理解し,責任ある行動をすることです。感染のリスクを理解して責任ある行動をすれば,感染する確率は確実に下がると思います。若者は重症化しにくいというのは事実のようですが,全ての若者は重傷化しない訳ではありません。そして,私たちの周辺には明らかに新コロナ弱者(新型コロナウイルスに耐性の低い人)がいらっしゃいます。ウイルスが弱毒化すれば,無症状の人の数は確実に増加します。どんなに注意していても,新型コロナウイルスの感染を完全には防御できません。しかし,不注意な行動(感染の確率を高める行動)をして新型コロナウイルスに感染し,無症状のまま知らず知らずにウイルスをばらまいてしまい,最悪にも多くの新コロナ弱者の方を重篤もしくは死亡させてしまう事態だけは避けたいものです。(2020年9月15日)

ページ先頭へ
<追記>2020年11月11日
 新型コロナウイルスの国内の新規感染者数は,7日移動平均の近似曲線では,9月末を底に再び上昇に転じています。この頃耳にした話では,新型コロナウイルスもこれまでのコロナウイルスと同様に低温の環境の方が感染能力を維持する期間が長いそうです。単純に表現すれば,寒い冬は熱い夏よりも感染力が高くなることになります。ところが日本では熱い夏の盛りに感染の第2のピークが来ました。その原因として,ウイルス自身の遺伝的な変化と人間の行動の変化とが考えられます。私個人は,「やや弱毒化した新型コロナウイルスが無症状の感染者を増加させ,人間の移動の増加とともに感染者を増加させたのではないか。」と考えています。これは勝手な推測ですので,皆さんも原因を推測してみてください。
第3のピークに向かっている現実を直視すると,新型コロナウイルスの遺伝的な変異をコントロールすることはできませんが,人間の行動は制御できます。何とか第3のピークを1日の新規感染者数を5千人以下には抑えたいものですよね。

<追記>2021年3月10日
 大変残念なことですが,第3のピークは私の予想を少し上回りました。感染者の測定値の最大は2021年1月8日の7949人です。感染から検査までの時間の差を考慮すると,感染のピークは予想通り年末年始ということになっています。これは,感染拡大に人間の行動が重要な意味をもっていることを示唆しています。
生物学でも,その生物が利用できるエネルギー源や空間を意味するものとして「資源」という言葉を使用しています。新型コロナウイルスの資源はヒトと人が行動する空間です。新型コロナウイルスにとって最高の資源は,「3密」という言葉で例えられている,多くのヒトが集まり飲んだり騒いだりしている閉ざされた空間です。「3密は避けましょう。」を生物学的に表現すると「新型コロナウイルスに,最高の資源を与えることはやめましょう。」ということになります。
 ヒトの行動を新型コロナウイルスにとっての資源という観点を加味して分類してみます。

① プライベートでは,必要以外は「3密」を避けて行動するヒト
② 新型コロナウイルスの感染者の増減や緊急事態宣言などの社会情勢に応じて行動を変化させるヒト
③ 法律や社会情勢を無視して,勝手に行動するヒト

になります。勿論,感染のリスクが最も高いのは③に所属する集団です。現在の日本に在住のヒトの集団中では極めて小さい割合だと思われます。しかし,この少数集団の影響力はけして侮れないのです。ヒトは共同生活を行っている動物ですから,必ず周囲に濃厚接触者がいることになります。③の集団に所属するヒトにどの程度の濃厚接触者がいるかはわかりませんが,若いヒト程多いことが予想されます。新型コロナウイルスの感染者の推移は示しているように,③の集団に属するヒトにその濃厚接触者に所属するヒトを加えた集団の影響力はけして無視できない訳です。
 それでは,新型コロナウイルスの感染者数の推移のグラフを見てみましょう。今回からグラフ縦軸の感染者数を対数メモリで示したものを追加しました。細菌やウイルスの増殖は指数関数的に起こるので,細菌やウイルスの増殖では対数メモリがよく使用されています。指数関数的な増加を対数メモリで示すと直線になります。今回使用しているグラフは片対数メモリと呼ばれるもので,感染者だけを対数メモリにしたものです。片対数メモリのグラフから見えてくる景色は,第1のピークの時は大きな感染者数の減少が見られたが,第2・第3のピークからの減少は非常にゆっくりであることです。第2のピークから第3のピークへは,山登りでいう「尾根歩き」のような状態で,現在もその尾根歩きのような状態が続いているということです。
 この冬はインフルエンザの感染者数が極端に少なかったようです。その本当の理由はわかりませんが,「3密」を避けるというヒトの行動が重要な要素であったことは間違いありません。まだまだ新型コロナウイルスに対抗できるレベルには達していないようですが,「行動」あるのみでしょう。私達にとってコロナ禍は,「自己のおかれている状況を把握して,適切に行動できるようになる」という学びの場になっていると思います。

ページ先頭へ
<追記>2021年4月10日
新型コロナウイルスの感染者数の推移は再び増加に転じています。新型コロナウイルスの感染者数の推移を対数メモリで示したグラフをみると,第1~3のピークはほぼ直線上にあることに気がつきました。これがただの偶然でなければ,第4のピークもその直線上にくることが予想されます。あな恐ろしい話ですので,日本在住の皆さんに,いい意味での大いなる転換点がくることを期待しましょう。

<追記>2021年5月21日 ワクチン接種報告
 ワクチン接種の申し込みの混乱が連日のように報道されています。久留米市の場合,申し込み方法は,電話・パソコン・ラインの3種類でした。ガラケイじいさんの私は,ラインはできませんので,まずは,電話しました。友人から,「パソコンはだめで電話はつなぎ放しにして待たないとだめだぞ。」と言われていましたので,やってみましたが,一定の時間で通常の呼び出し音が切れてしまうようです。これはまずいと思いパソコンに切り換えました。捜し物が苦手な私は申し込み方法を見つけるのに大変手間をとりましたが,後の操作は簡単で1回目の予約の画面がでました。よく観るともう空いている日程は残っていません。そこで,再び,高頻度電話作戦にきりかえました。すると,幸運なことに9時過ぎに電話がオペレーター(機械)に接続され,しばらく待つと係につながりました。パソコンで基本情報が入力済みだったので,希望会場と日時だけを入力してもらうだけで終了しました。接種予約日は接種開始初日の13時半から14時で,接種場所は最初にパソコンで申し込めなかった近くの総合病院が取れました。各地で電話予約が混雑する原因は,おそらくパソコン枠やライン枠は予約開始で直ぐにうまり,残るのは電話枠のみになるからではないかと思いました。
 接種当日は予約時間の30分前到着を目標に家を出ましたが,施設内の接種場所を見つけるのに手間取り,会場に到着したのは予約時間の15分前になりました。検温の後にマスクを二重にして必要書類のチェックに臨み,緊張して接種の順番待ちの列に並びました。列は思いの外速く進み,予約時間前の13時29分に接種は完了。15分強の待機時間の後,14時前には会場を後にしましたが,その頃には会場内の人の姿はまばらでした。年寄りはみんな早くやって来るんですね。
予防接種で最大の不安は,副反応です。直接の関連は不明とされていますが,血栓で死亡者が出ているのは気がかりですし,二日目には発熱も少なくはないとのことでした。幸いなことには,私は接種日にやや疲労感を感じたこと,接種部のやや下側に痛みが2~3日残った程度で済みました。
 予防接種の人手不足が叫ばれていますが,自分の体験からは,接種会場における一連の過程で一番時間を消費したのは,待機時間でした。これは,地方都市では会場の面積を広くすれば解決します。最高の集中力を必要とする過程は,接種ではなく注射器にワクチンを無駄なく正確に必要量とることだと思います。一連の過程の中でどこまで医師や看護師でないとできない医療行為であるのかはわかりませんが,かなりの割合が他の人でも補えると考えます。むしろ,予約券が自宅に到着するまでの過程,各自の予約が成立するまでの過程の方に大いなる人で不足を感じます。何とかなりませんかね
 しかし,一連の人手不足の最大の課題は,パンデミックと同時進行であるということです。一部の地域は医療崩壊で,入院はおろか治療も十分受けられなくなっている人がでています。このような地域では,どの命を救うのかという命の選別がはじまっているとも言われています。この問題を回避するために,どうすればよかったのか,また,どのようにすれば乗り越えられるのかはホームページの性質上語りませんが,日本在住のみなさんは必ずやこの問題を乗り越えていくことと信じてやみません。

<追記>2021年6月10日
第4のピークは私の予想よりも,早く,小さく通過したようです。感染者の減少を受けて,緊急事態宣言下,私も我慢していた理髪店と歯科に行ってきました。幸いなことに,医療現場へのワクチン接種も進んでいるようですし,最大の感染拡大源と思われる学生への接種も始まるようです。「夜の町の関係者」への優先接種も検討されているそうです。新型コロナウイルスの感染者数の推移は,ワクチン接種拡大の効果が現れ始めたことを示しているとも解釈できます。ワクチン接種が,順調に進むと新型コロナウイルスの感染拡大は一定程度抑えられると思われます。しかし,「天災は忘れたころにやってくる。」感染再拡大も油断した頃に・・・。コロナ対策の優等生,台湾の例が「他山の石」となることを願っています。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2021年6月1日まで)

ページ先頭へ

<追記>2021年6月18日 ワクチン接種報告(2回目)
 2回目は前回よりもやや緊張して迎えました。予定通り予約時間の30分前に接種会場に装着しましたが,今回は受け付けが混んでいました。どうも,私が接種の割り当て時間では最後?の到着のようで,すぐ後には次の時間のグループが来ていました。問診では,「何か心配なことはありますか。」と尋ねられたので,「2回目はよく発熱するらしいですが,その割合はどのくらいですか。」と尋ねました。すると,「若い女性が時々発熱しているようです。ご心配でしたら,市販の○○などを用意してくださいとのことでした。何と「山羊さん答弁」でしたが,気持ちは伝わってきました。接種それ自体は待ち時間ほぼゼロで済みましたので,何とか予約時間内で接種を完了することができました。注射の時は1回目よりもやや強い痛みがありましたが,大きな副反応はありませんでした。1回目と同様に接種部分周辺に違和感があったこと,やや倦怠感を感じたことくらいです。それでも,風呂からあがるとすっきりなった気がしましたので,枕元には解熱剤は用意せずに就眠しました。
 友人は,奥様には発熱があったそうですが,自分には全く何も起こらなかったので,ニュースなどで聞くワクチン濃度が薄いもしくは生理食塩水のみのものを注射されたのではないかと心配していました。何でも,彼の接種のときに用意していた注射器を慌てて?別のものに取り替えたそうです。心配し過ぎでしょう。
 「女性の方が男性より,ワクチンによって産生される抗体は多い。」,「女性の方が男性より,発熱する割合が高い。」というのは統計的な傾向のようです。「発熱などの副反応が出た女性が,ワクチンによって産生される抗体は多い。」訳ではないのですが,それを拡大解釈すると,「発熱などの副反応が出た人の方が,ワクチンによって産生される抗体は多い。」となり,更に,「何の副反応も起こさなかった男性には特に抗体ができにくい。」ということを心配する男性が出やすいことになります。このような関連する分野の独立に存在している事象を,いつの間にか関連付けてしまうことは,よくあることでしょう。これを故意に促すのが「印象操作」ですね。

以下のオンライン読売新聞(2021年6月18日)の記事を紹介します。

国立国際医療研究センターは15日,新型コロナウイルスワクチンの接種後に起きる副反応の強さと,ワクチンによって体内で作られる中和抗体の量には,ほとんど関係がなかったとする研究成果を発表した。接種後の副反応には個人差があるが,腕の痛みや発熱などがなくても,ワクチンの効果について不安に思う必要はないという。
同センターは,米ファイザー社製のワクチンの接種を受けた熊本総合病院(熊本県八代市)の医療従事者約220人について,接種後に定期的に採血して分析。ウイルスの細胞への感染を防ぐ中和抗体の量を調べた。
その結果,体内の中和抗体の量は,接種後の腕の痛みの強さとは関係がなく,発熱したかどうかとの関係もほとんどみられなかった。一方,女性の方が男性よりも中和抗体の量が多い傾向があった。・・・

 この記事をどの程度受けいれるかは,解釈の自由だと思います。確かにサンプル数は十分だとは言えないでしょう。私は,「副反応の大きさと体内の中和抗体の量との関係が,もしあったとしても気にする必要のない程度である。」と考えます。ですから,「何の副反応も起こさなかった男性」も心配する必要はないと思います。それよりも,たとえワクチン接種が終了していても,男性の方が女性よりも中和抗体の量が少ない傾向にあることを,特に男性の皆さんは肝に銘じて行動するべきでしょう。

<追記>2021年7月10日 
 第4のピークは私の予想よりも早く通過したことはいいことだと思っていたら,もう,新型コロナウイルスの感染が拡大に転じているようです。ワクチン接種の増加もこの流れを抑えることには,一定以上の効果はなかったことになります。ワクチン接種が進めば,新型コロナウイルスの感染拡大は完全に抑え込めるというのは,過剰な希望的観測だったことになります。ワクチン接種で先行したイスラエル保健省の発表によると,国内でインド起源とされるデルタ株の流行にともなって,ワクチンの予防効果が低下しているという話です。しかし,ワクチン接種による重症化を抑える効果は維持されているといいます。この報道をどう捉えるかですが,それを科学的に議論するには報道の論拠となったデータをきちんと検証する必要があります。取り敢えず,「命を守る」的な解釈をしましょう。
 「ワクチン接種には,一定の予防効果があり,感染しても重症化を抑える効果もある。しかし,予防効果は完璧ではないので,接種後も3密は避け,マスクの着用など感染予防を心がけよう。」って感じですかね。
個人的には,予防接種で先行している国の若者の行動をみていると,ワクチンの有効性の低下を議論する以前の問題があるように思えますが・・・。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2021年7月1日まで)

ページ先頭へ
<追記>2021年8月10日
 今回は,前回とは逆に感染者が国内でも1万人の壁をいとも簡単に突破してしまいました。オリンピックの開催と感染者の急増は関係があるのでしょうか。両者の関係を意図的に否定したり,逆に,無理に関連づけたりする主張があるようです。まずは,以下の朝日新聞の記事をネタに考えてみます。

“印象”問題視 海外記者が語る「五輪と感染拡大」
 東京ではオリンピックの開催中に,新たな新型コロナ感染者が3日連続で3000人を超えるなど,感染が急拡大しています。
 この状況は,海外のメディアにどう映っているのでしょうか。
東京・浅草から生中継を行ったアメリカのCNN。話題の中心は新型コロナでした。

 CNN東京支局長,ブレイク・エシッグ氏:「(Q.オリンピックが始まって1週間。日本でのコロナ感染者数が過去最高になっています。問題となるのは,これはオリンピックのせいなのでしょうか?)この要因がオリンピックなのか,デルタ株なのかを知るには時期尚早です。オリンピック関連で出ている感染者数は,それほど多くはないのですが,オリンピックが結果として,増加につながっている可能性はあります」

 エシッグ氏は,半年前から日本で取材を行ってきました。感染拡大が指摘されていた中での開催についてどう思っているのでしょうか。
 CNN東京支局長,ブレイク・エシッグ氏:「オリンピック中止となれば明らかに問題でした。ただ,オリンピックを開催することで“大した危機ではない”という印象を国民に抱かせたと言っていた専門家もいました。その結果,仕事や飲食に出かけ,感染がまん延した。これも問題だと思います」

他のメディアからは,こんな指摘も出ています。
ロイター:「多くの国ではたびたび,厳しいロックダウンが実施されてきた一方で,日本政府の対策は主に,飲食店などへの要請だけである」

 ワシントン・ポスト:「開幕前,東京都民は,国外から数万人が訪れることに大きな不安を抱いていた。その不安は見当違いだったかもしれない。東京の感染者は過去最多を記録したが,バブル内の感染状況はずっと抑えられている」

バブルの内側にあたる大会関係者では,これまでに225人の感染が確認されています。
ただ,陽性率で見ると0.02%,空港検疫でも0.08%という状況です。
一方,バブルの外側,日本国内における陽性率は,単純比較はできませんが,政府の発表によりますと,最近は10%ほどです。

 仏・レキップ紙,ロイク・グラセ記者:「海外の関係者は,ワクチンでコロナから守られています。スポーツ記者は,早朝から深夜まで働き詰めです。市民と接触する時間すらありません。大半の関係者が公共交通機関を利用していないはずです。(Q.五輪と感染拡大に結び付きは?)ないです」

 スロベニア・エキパ紙,アンドレイ・ミルコビッチ記者:「感染者は至るところで増えています。欧米各地でも急増しています。だから,日本で増えるのは時間の問題で,実際に増え始めています。新たな感染の波が来ているだけで,特別なことではありません」
(テレビ朝日7/30(金) 23:30配信)

 私も,オリンピック関係で訪日されている方々が,直接今回の急激な感染拡大の最大の要因であるとは思いません。しかし,もう我慢できないという方々にとっては,「オリンピックをやれるんだから,私たちも・・・」的な発想を爆発させたことは事実であるような気がします。「オリンピックだ。四連休だ。盛り上がろうぜ。えーじゃないか,えーじゃないか,・・・」のような勢いを特に若い人たちにあたえた感じですね。
 この記事の最初下線部で指摘されているように,急激な感染拡大の要因について決論を出すことは時期尚早でしょう。問題にしたいのは,二番目の下線部です。この記事には,きちんと単純に比較できないと述べて紹介してあります。しかし,オリンピック関係者からこの数字を単純に比較して,「だから,オリンピック開催と新型コロナウイルスの感染拡大とは無関係だ。」という主張がなされたことを皆さんも聞きませんでしたか。決論はともあれ,科学的には単純に比較してはいけないデータを無理やり比較していることは間違いありません。
 地方のある病院で,現在陽性率は1割を超えているそうです。それでも,前回のピーク時よりは低く,前は5割を超えたこともあったそうです。陽性率とは検体に対する陽性者の割合ですから,どのような検体を検査しているかによって決まります。ワクチン接種済みでみかけも健康な集団と新型コロナウイルスの感染が疑われる集団とで陽性率を比較しても何の意味もありません。敢えて比較したいのであれば,会場周辺地域や関係者の中でワクチン接種済みでみかけも健康な同年代の人を同程度選んで検査を実施しなければいけません。現状では,誰もそんなことはやりませんよね。現実は,「科学的な探求よりも身を守る行動を。」と言われるところでしょう。

 次に,新型コロナウイルスの視点で考えてみましょう。その生物に必要な食物や生活空間など生存に必要な要素を「資源」と呼んでいます。新型コロナウイルスにとっての「資源」は,ヒトとヒトの行動する空間,ウイルス粒子が移動できる範囲などということになります。ウイルスも命?をつながなければ,自己複製体としては生態系からは退場することになります。ですから,ヒト(宿主)を直ぐに死亡させては意味がありません。最低でも,次のヒト(宿主)に感染するまでは生きていてほしいものです。デルタ株を眺めてみると,細胞と結合する部分に変異が生じ,細胞との結合力が増加した結果,感染力が高まり,多くの若者の間にも広がっていったようです。重傷化リスクの低い若者に感染することによって,より確実に命?をつないでいけるようになったのです。まさに,水を得た魚のような状態で,当分デルタ株による新型コロナウイルスの感染拡大は収まりそうにはありません。「ワクチン接種を急げ。」との声も聞こえますが,ワクチン接種で防げるのは主に重傷化リスクと考えていた方が無難でしょう。しかし,デルタ株の感染拡大で先行したイギリスとインドでは感染拡大が収まってきています。両国はワクチン接種の接種状況や医療体制など様々な差異がありますが,デルタ株の感染拡大がともに収まってきたのは何故でしょうか。これは,「資源」という言葉で説明ができます。それでは,デルタ株にとって最もよい「資源」となる人間像(人材)をあげてみましょう。

① 「もう我慢できない。」などという理由付けをして,自由に行動している健康なヒトの集団
 ・マスクをつけずに行動する。
 ・集まって飲み食いをし,大声で騒ぐ。
 ・ヒトの集団の中を長時間移動する。
② ①の集団との濃厚接触者で健康なヒト

 感染力が上がれば,①及び②の集団で感染者の割合が上昇し,更に通常は濃厚接触者とは呼ばない,職場・学校・電車内などの一定距離内で行動圏が重なる人へも感染のリスクが高まっていきます。しかし,どんなに感染力が強くなっても資源はやがて枯渇しはじめ,次第に感染者の数は減少に転じます。一度感染して回復した健康な人は多少の後遺症はあっても,直ぐに同じ株に感染することはほとんどありません。都市部には確かに新型コロナウイルスにとっての優良な資源(人材)が豊富に存在することは事実ですが,その資源もやがて枯渇していくと思われます。なんとか,パラリンピック前には感染拡大もピークアウトしてほしいものです。

 最後に,「新型コロナ 第5波は死亡者数が少ないから大丈夫」は本当か?という忽那賢志さんの記事を紹介します。この記事のデータからすると,デルタ株による死亡率は低下しているようにみえます。ウイルスの王道は,宿主との共存です。新型コロナウイルスもウイルスの王道を貫き,やがて,ヒトと普通に共存していく道を見つけることを期待しましょう。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2021年8月1日まで)

ページ先頭へ

<追記>2021年9月10日

 新型コロナウイルスの感染者数のデータを整理していると感じることは,データが何回も修正されていることです。今日発表された数値が次の日修正されていることは普通ですし,1ヶ月以上後で修正されることも稀ではありません。そこで,最初に述べたように7日移動平均を見ることを推奨した訳です。お気づきの方も多いと思いますが,7日移動平均でも大きな行事や連休などの影響でグラフがいびつになることがあります。そこで,今回は30日移動平均について考えてみることにします。
 30日移動平均は,その日を含む約1ヶ月のデータを平均したものです。30日移動平均の近似曲線でもまだ多少のいびつさはのこりますが,7移動平均の近似曲線よりはかなりなめらかな変化になります。30日移動平均の大きな特徴として,近似曲線の頂点が感染者数のピークやボトムより遅れて現れることです。これは,7日移動平均の近似曲線が感染者数の変化を大雑把になぞるのとは対照的です。ですから,感染者数のピークやボトムを知るのには役に立ちません。しかし,この微妙なずれには,意味がありそうです。私は統計の専門家ではないので詳しいことはわかりませんが,経済分野の分析ではグラフの交叉を,ゴールデンクロスやデッドクロスなどの名称で呼び,経済の変化を知る重要なポイントとされています。30日移動平均の近似曲線と7日移動平均の近似曲線とを比較したグラフはありませんが,7日移動平均の近似曲線は感染者数の棒グラフの先端をなぞる形になります。そこで, 図2の30日移動平均のグラフを見ていくことにします。
(補足;グラフは縦軸が対数目盛りと線形目盛りとがあります。対数目盛は,図1・2の縦軸のように, 1つ目盛りが上がる毎と数が指定された倍数ずつ増加します。通常10倍ずつ増加するものをよく使用します。線形目盛りは,図3・4の縦軸のように,通常よく使用されている目盛りの大きさが等間隔で増加していくものです。今回の新型コロナウイルスの感染者の変化のような数の爆発的増加が起こるものを長期間追いかける場合は対数目盛が向いていると思います。)
 感染者数を示す棒グラフと30日移動平均の近似曲線のグラフとの上下関係に注意してください。感染者数を示す棒グラフが30日移動平均の近似曲線より上にある時は,感染者数が増加傾向にあることを示しています。逆に,感染者数を示す棒グラフが30日移動平均の近似曲線より下にある時は,感染者数が減少傾向にあることを示しています。そこで問題になるのが,経済と同様に,2つのグラフが交叉する点です。特に重要だと思われるのは,感染者数を示す棒グラフが30日移動平均の近似曲線のグラフを上に突き抜ける時です。グラフをご覧になるとわかるように,この交叉から,毎回,やがては感染者数の増大で緊急事態宣言の声が聞こえるようになります。てすから,この感染者数を示す棒グラフが30日移動平均の近似曲線のグラフを上に突き抜ける時は,感染爆発の警戒警報としての機能をもっていることになります。感染者数の抑制には,よく言われているように「先手,先手の対応」が必要です。新型コロナウイルス感染者数の第5のピークへの兆候は,7月初めには出ていました。今回の新型コロナウイルスの感染爆発を災害級だと例える人がいます。これを,天災と同じ緊急対応が必要だという意味で使用している方はいいですが,天災と同じだから防ぎようがなかったのだと言訳にしてしまっている向きも感じられます。予測される災害は事前に非難準備情報が発せられます。今回の感染爆発では,7月初めに「新型コロナウイルス感染爆発対応準備情報;今後感染者数の急拡大が予想されます。医療崩壊が起こらないように,人流を減らすのに極力ご協力をお願いします。」のような発信ができなかったのかなと思います。確かに,結果がでないとわからないということは,事実です。しかし,今回の感染爆発は想定されたレベルの出来事です。7月初めに,医療崩壊の状況を事前のシミュレーションとして,皆さんに旅行計画などを変更してもらうことはできなかったでしょうか。しかし,現実は7月の日本人の国内宿泊者数(速報値)で,延べ数で3千万人を超えるという現実でした。
 自由奔放に振る舞う都会の若者の映像を見て,「何とかならないんですかね。」と私が言うと,知り合いから「若者がどんどん死にださないと変わりませんよ。」という返事が返ってきました。しかし,あれほどワクチンをうちたくないという発言ばかりがクローズアップされてきた若者の行動に変化が現れていると言われています。やはり,若者も同世代の死は重く受け止めているのでしょう。新型コロナウイルスの脅威は多くの若者にとっても,もはや対岸の火事ではなくなっていると感じていると思います。
 私自身も身近な人の死をもって新型コロナウイルスの脅威を実感したいとは思いません。ラムダ株(ペルーで発見)の蔓延で国民の約150人に1人が死亡したペルーでは,感染が次第に収まりつつあるそうです。医療機関の調査では7割の人が抗体をもっていた地域もあり,感染者数の発表を遥かに超える数の国民が感染していたようです。ペルーでは,集団免疫ができつつあると推測する意見もあります。これ例を盾に「医療が崩壊しても,やがては,新型コロナウイルスの感染は終息する。」と言い張るのはいかがなものかと思われます。勿論,間違いではありません。新型コロナウイルスがなぜパンデミックを起こせたかといえば,ヒトを誰でも直ぐに殺してしまう訳ではないからです。しかし,新型コロナウイルスは現時点までには弱毒化するどころか変異株は感染力を増大させているようです。まだまだ,感染力の強い変異株が現れそうです。どれ程のヒトが死ねば感染力の強い変異株による感染爆発に終わりが見えるのでしょうか。何も対策に進展がなければ,次回は今回のペルーの例を超えることも考えられます。ペルーで今回の感染爆発を何とか逃れることに成功した人達が,マスクを2重にしていた映像が目に焼きついています。「自分の身は自分で守る。」,このことは日本でも大きくは変わらないようですが・・・。
 最後に,もう一度移動平均のグラフを見てください。30日移動平均の近似曲線のグラフ及び7日移動平均の近似曲線のグラフとも,ピークアウトのサインが出始めているようです。今後どのように変化するか,これまでの経過及び条件の変化などを考えて,皆さんも予想してみてください。昨年の轍は踏まないことを期待したいですね。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2021年9月1日まで)

<追記>2021年10月10日

 幸いなことに,新型コロナウイルスの新規感染者数は順調に減少を続けています。この減少の理由は,科学的にはわからないとのことです。本日時点で,7日移動平均の近似曲線は,前回の底(上昇に転じる前)を下に突き抜けて減少を続けています。これに類似した例は世界中いたる所に見られるようですから,これを新型コロナウイルスの感染の特徴という主張もあります。この考えに私も半分賛成です。どんなに感染力が強いとされる変異株でも,新型コロナウイルスに感染しやすい行動をとるヒト(資源)は,有限です。感染が爆発的に進めば,残される資源が少なくなり次第に感染拡大の速度は小さくなり,やがては収束するということになります。それに加え,今回は若年層の態度の変容があったと思います。若年層の中からも死亡者が出たことや入院もできずに死亡した人のニュースが世の中を駆けめぐりました。幸いなことに,「若者がどんどん死にださないと態度は変わりませんよ。」ということにはならなかったようです。
 早くも,次の感染のピークが話題になっています。ウイルスは常に変異を繰り返しますし,人流も増加すれば,感染者数が増加する局面は必ず訪れることは誰でも予想できることです。しかし,私は次のピークは今回のものより小さくなると予想します。勝手な思い込みと言われるでしょうが,ヒトは知的な生物であると思いますし,日本は科学や医療が特別に遅れているとは思いたくないからです。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2021年10月1日まで)

ページ先頭へ

<追記>2021年11月10日

 幸いなことに,新型コロナウイルスの新規感染者数は順調に減少を続け,これまでの減少期間の最長になりました。新型コロナウイルスの新規感染者数は,第2~5のピークの間に存在する第2~5の底の値を全て突き抜けて減少しました。このことから,第2~5の山は1つの大きな連山と考えてもいいような気がします。ウイルスが自壊したとの説明も聞こえますが,30日移動平均の近似曲線のグラフの形状には特に奇妙な変化は現れていません。ということは,次のピークが第5のピークを超えるまでの最低限の時間的な猶予を計算することができます。データが増えると,その予想もかなり正確になります。
 「問題は次のピークに備えることだ。」と声高に叫ばれています。勿論正しいとは思いますが,気になるのは次の山がどのような姿になるかです。「もう,新型コロナウイルス対策ステージを新規感染者数ではなくて,重傷者の数や医療機関の逼迫の状況に応じた判断に基準を切り替えるべきだ。」とも言われています。これもごもっともな話だとは思いますが,問題は私たちひとりひとりの健康であることは間違いありません。注意深く感染者数の変化とその分布を見守りながら,自身の健康状態と相談しながらリスクを取る範囲を判断していくのが無難だと思います。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2021年11月1日まで)

<追記>2021年12月10日

 少し残念なことに,順調に減少を続けていた新規感染者数も下げ止まりの兆候がみられます。南アフリカで発見されたオミクロン株と呼ばれる変異型が出現して世界中に感染が拡散しつつあります。オミクロン株は,感染の時に細胞と結合するタンパク質に30程度の変異を持ち,ワクチンの効果を低下させ,再感染のリスクを高める可能性が懸念されています。変異の半数がこれまでに発見されていないもので,このような複数の変異をもつ株が現れたこと自体信じがたいと主張される方もおられます。また,これだけの変異が出現するには,一度他の動物に感染したものが,もう一度ヒトに感染したのではないかという仮説も提出されているようです。しかし,アフリカ大陸の大きさと医療の実態を考えると,感染力が弱い変異は特別な調査が実施されていない限り見つからなかったのではないかとも思われます。
 オミクロン株の影響については,悲観論と楽観論との両方があるようです。ある経済の専門家は,世界の経済界はデルタ株の出現以降,アフターコロナからウィズコロナへと舵をとったと言っていました。特定の国以外は新型コロナウイルスを完全に封じ込められるとは思わなくなっているようです。新型コロナウイルスとどのようにつきあっていくかが大切だということになります。オミクロン株が発見されてからまだ時間があまりたっていませんので,はっきりした科学的なデータが積み上がっているとはいえませんが,今のところ,オミクロン株は感染力が強いが重傷化はしにくいのではないかと予想されています。私も基本的には楽観論に近いですが,南アフリカからの報告がそのまま日本人に当てはまるとは限りませんので,用心にこしたことはありません。個人的な予測では,新規感染者数が前回のピークを上回ることはないとは思いますが。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2021年12月1日まで)

<追記>2022年1月10日

 残念なことに,順調に減少を続けていた新規感染者数も前年の11月下旬を底に,再び増加に転じてしまいました。しかも,新規感染者数の増加速度は今までのトップのようです。このままのペースで増加を続けることはないとは思いますが,それでも,新規感染者数が1日で10万人を超えることも想定しておくべき事態になっています。「個人的な予測では,新規感染者数が前回のピークを上回ることはないとは思いますが。」と前回述べましたが,雲行きが怪しくなっています。今までの新規感染者数の変化のグラフから第6のピークを予想すると,だいたい北京冬季オリンピック(2022年2月4日~2月20日)あたりと思われます。しかし,これは感染の拡大が従来の株及びオミクロン株によるものだけで終了すると考えた場合です。新たに感染力の強い株がこの期間に現れてくるとまったく事態がかわることになります。
 オミクロン株は南アフリカ以外の国でも,「感染力は強いが,重傷化リスクは低い。」というのが医学的なコンセンサスになってきているようです。南アフリカでは,既に新規感染者数がピークアウトしているようにもみえます。「弱毒化しながら宿主と共生していくようになる。」これがウイルスなどの病原体の王道です。百年前のスペイン風邪によるパンデミックは約3年でなぜか収束したとのことでした。今回の新型コロナウイルスよるパンデミックも3年程度で収束に向かってほしいものです。オミクロン株の出現が,このパンデミックの終わりの始まりになってくれることを願います。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年1月1日まで)

ページ先頭へ

<追記>2022年2月10日

 前回,「新規感染者数が1日で10万人を超えることも想定しておくべき事態になっています。」と述べましたが,本音ではそこまでには何とか収まるのではないかと思っていました。これは私が日本のおかれている現状をあまく認識していたためです。異文化の人の集団がこれほど感染の伝播に高い影響力を及ぼすことを想定していませんでした。結果として,新型コロナウイルスの新規感染者数が難なく10万人の壁を突破してしまいました。現在は検査試薬も不足気味なので,検査も十分にはできないようになっています。ですから,正確な感染者の実態を把握できない状態が続くと考えられます。新型コロナウイルスの新規感染者数のグラフで感染者の増加ペースは次第に減少しているようですから,感染者のピークはそう遠くないと思います。しかし,一部の専門家は前回のピークからの減少の時とは異なり,いつまでも感染者数が多い状態が続くのではないか予想しています。実態はともあれ,検査試薬の不足が継続している間は,日々発表される新型コロナウイルスの新規感染者数の推移は見かけ上は私もその予想に近い状態が続きそうな気がします。
 前回「オミクロン株の出現が,このパンデミックの終わりの始まりになってくれることを願います。」というおめでたい希望を述べましたが,少なくとも新型コロナウイルスの新規感染者数のグラフからは支持されそうにありません。第7のピークはもっと高くなるかもしれないぞと警告を発しているようにもみえます。しかし,このパンデミックの終わりは確実に進行しているように思います。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年2月1日まで)

<追記>2022年3月5日 ワクチン接種報告(3回目)
 2月25日に3回目のワクチン接種を受けました。今回はモデルナを接種してみようと考えていましたが,残念ながら集団接種会場はなぜかファイザーでした。結果的には3回連続でファイザーのワクチンを接種したことになります。接種後に「十分水分を摂取するように」との指示がありました。医療関係者からの指示だったので帰ってネットで調べてみたのですが,医学的な論拠を見つけることはできませんでした。
待機時間から夕食までの時間は何も感じなかったので,「今回が一番軽かったのかな。」と思っていると,夕食後,肩に急激に違和感を覚え始めました。医療関係の知り合いに話すと,「私は3回目が(肩の腫れ)一番ひどかったですよ。特に2日目は胸のリンパ腺まではれました。」とのことでした。覚悟して2日目を迎えましたが,前日と同じ程度でしたのでほっとしました。小さな痛みを伴うはれも,3日間程度で収まりました。
 私は普段から多くの水分を摂取していますので,「水分の摂取と副反応」について論じる例にはならないとおもいますが,副反応の強さはヒトそれぞれで統計的な傾向は発見できても,個人個人には参考になりにくい気がします。

新型コロナウイルスの感染者数の推移 (2022年3月1日まで)

<追記>2022年4月9日
 「お前の予想では,3月はもっと感染者の数が減るんじゃなかったのか。」と友人に言われましたが,新型コロナウイルスの新規感染者数はこれまでで最も遅いペースで減少し,ここにきて,下げ止まりから増加に転じる気配さえ見せています。この原因は何でしょうか。私は,日本は検査体制の不備が指摘されますが,新型コロナウイルスの感染者数(累計)は欧米やインドなどとは比較にならない程少ないと思います。新型コロナウイルスの資源となる感染未経験者の割合は非常に大きいことになります。オミクロン株は若年者への感染に成功し,新型コロナウイルスにとっての新しい資源を獲得しました。今回の感染拡大に重要な意味をもつものは,「学校」だったと思います。私の周辺でも,子供から家庭内で感染したという例が多数あったと聞きます。家庭内での感染を防ぐのは極めて困難です。しかし,私たちの体には,「免疫」というシステムがあります。今回の感染拡大で家庭内感染を経験した人達は,しばらくは,新型コロナウイルスに対する免疫を維持すると考えられます。彼らにとって朗報は,次の感染拡大の主因はオミクロン株の亜系統のBA.2ということです。感染力がBA.1よりも強いことが指摘されていますが,これは主に新型コロナウイルスに感染したことのない人に対してです。BA.1に感染した経験のある人ではないことが予想されます。新型コロナウイルスにとっては資源が確実に減っていることになります。普通に考えると,BA.2による新規感染者数のピークが,BA.1による新規感染者数のピークを上回ることはないと思います。
私は,オミクロン株の出現が新型コロナウイルスによるパンデミックの終わりの始まりだという考えをもっています。これは所謂楽観論で,もちろん予想は裏切られることも多いので,注意深く感染防止に努めるべきでしょう。しかし,家の中でじっとしているのにも限界があります。海外の状況と日本の実態はかなり異なっているので,注意深くリスクをとることになります。そこで参考になるのが,個人的には沖縄県・広島県・北海道の新型コロナウイルスの新規感染者数の推移ではないかと思っています。確かに,リバウンドが見られますね。新学期に大きなリバウンドがあるかどうかも,今後を占う重要な鍵になると思います。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年4月1日まで)

<追記>2022年5月10日
 ある会合の席で「新型コロナウイルスによるパンデミックはいつ頃収束すると思いますか。」と尋ねられたので,「早ければ今年の夏,遅くとも今年度いっぱいには何とかと思っています。」と、例によって無責任な予想を述べました。この予想が当たるかどうかはともあれ,オミクロン株による新規感染者数の推移が重要な意味をもつことになると考えています。前回も少し触れましたが、感染拡大の主役が始めて同じオミクロン株から現れたことには重要な生物学的な意味がありそうです。そして,新たな変異型が同じ株ないで複数報告されています。これらの中から感染拡大の主役が入れ代わっていけば,これまでにみられなかったことが起こりそうな気がします。
 あらためて新型コロナウイルスの新規感染者数の推移のグラフを見てみましょう。これまでに見られなかった形状をしています。7日移動平均の近似曲線と30日移動平均の近似曲線とが抜きつ抜かれつで並走しているのが見て取れます。今までの新型コロナウイルスの新規感染者数の推移では見られなかったことが起こっていることを示唆しているのではないでしょうか。個人的には,パンデミックの収束と関係してくる気がしています。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年5月1日まで)

<追記>2022年6月10日
 新型コロナウイルスの新規感染者数の推移のグラフでは,先月と同様な変化が続いています。30日移動平均の近似曲線は,緩やかですが,確実に減少を続けています。7日移動平均の近似曲線も小さなピークを繰り返しながらピークの値を切り下げています。これは,楽観的に見れば,パンデミックの収束のサインの様に見えます。しかし,外国人観光客が増加するとどうなるかは,誰も保証できないでしょう。私は楽観論ですが,油断は禁物です。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年6月1日まで)

<追記>2022年7月2日
 新型コロナウイルスの新規感染者数の推移のグラフでは,先月とはやや異なり新規感染者数が下げ止まり,増加に転じる気配が現れています。7日移動平均の近似曲線は下げ止まり,30日移動平均の近似曲線に急接近し,下から上へ突き抜けそうにも見えます。まだ,オミクロン株の変異株が活躍している間は,前回のピークを超えるような大きな増加はないと信じますが,新たな種類の変異株の名前が聞こえるようになると,大変なことが起こることも予想されます。リスクを慎重にはかりながら行動したいものです。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年7月1日まで)

<追記>2022年8月2日

 すいません。オミクロン株の名前が消えないうちに,新型コロナウイルスの新規感染者数が前回のピークをいとも簡単に突破してしまいました。これは,オミクロン株の「BA.5」の感染力が非常に強いことを意味しているようにもみえます。「BA.5」による新規感染者数で世界最高を記録しているとも言われているようです。とにかく,「BA.5」では,これまでには感染しないような人までも感染していることは事実のようです。日本人は何と言っても世界の中で今までに感染していない人の割合が高い状態が続いています。新型コロナウイルスにとっての資源がたくさん残されている状態をキープしていることになります。そこで,新しい感染力を身につけた変異株が現れると,最悪の場合,その株でも新規感染者数で世界最高記録を更新できそうな気がします。
 今回の感染者数のピークは8月だと予想していますが,ケンタウルス株の活躍を予想して9月になると予想する人もいます。今回予想外だったことは,「3回目感染者の出現」です。新規感染者数は実際の感染者数ではなく,確認できた数とのことです。ですから測定値のピークは現れていても,実際のピークは不明になりそうです。
 いつも,楽観論で申し訳ありませんが,次の大きなピンチはケンタウルス株の活躍ではなく,「4回目感染者の出現」だと思います。残念ながら,「2回目感染者の出現」から「3回目感染者の出現」までの間は短かった気がしています。最悪のケースでは,年内もしくは来年早々にも次の大ピンチが来るかもしれません。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年8月1日まで)

<追記>2022年9月3日
 新型コロナウイルスの新規感染者数はやっとピークアウトの兆しが見え始めています。7日移動平均の近似曲線は,ピークが2コブになっています。これは,おそらく盆前後及び医療業務のキャパシティ限界のため,新規感染者数を正確には捉えられなかったために起こった現象だと思います。都会の方では家族感染まで調べていないケースも多いと聞きました。
 新規感染者数のピークは完全な予想になってしまいますので,統計が得意な方に任せることにします。問題は,今後です。久しぶりに政府による行動制限がでなかった夏でした。その結果,それなりの数の新規感染者数が出ました。いつどのような形で新型コロナウイルスのパンデミックが収束するのかは,誰にも予想ができません。楽観論の私も,今年度中の収束を信じてやまないとまではいきません。データを素直に観ると,まだまだ,新型コロナウイルスの新規感染者数は増減しながらも増加傾向にあります。自論や予想はともあれ,新型コロナウイルスの新規感染者数の変化を横目で見ながら,リスクテイクするしかないようです。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年9月1日まで)

<追記>2022年10月3日
 新型コロナウイルスの新規感染者数は順調に減少を続けています。WHOは今回のパンデミックが収束に向かっているという見解を発表しています。確かに世界的に見ると,新規死亡者数はピークアウトしてきているように見えます。しかし,これを単純に日本に当てはめられるかは多少疑問です。この最大の理由は,記録された累計感染者の数が他の国に比べて明らかに少ないからです。勿論,無症状の感染者の中には,未検査の方も多数おられることが予想されますが,それでも他国と比較すると,未感染者の数はまだそれなりの数であることが予想されます。個人的な予想では,新型コロナウイルスの新規感染者数は,一定程度まで減少を続け,再び上昇に転じると考えます。注目すべきは,新規感染者数がどこまで低下するかです。第7のピークまでには,6つの谷があります。たぶん,第6の谷は下まわると思いますが,第5の谷を超えて減少することは難しそうです。少なくとも第4・第3の谷までは下まわってほしいものです。予想がはずれて,第5の谷以下まで減少を続けると,日本でもパンデミックの収束が視野に入りそうです。予想がはずれるといいですね。
 幸いなことに,国内産の新型コロナウイルス感染者に関する飲み薬が日の目を見そうな段階になりました。以前よりも新型コロナウイルス感染の脅威は減少していくと思われます。新型コロナウイルス自身もウイルスの王道である「弱毒化」が続いているように感じられます。しかし,油断は禁物でしょう。

新型コロナウイルスの感染者数の推移 (2022年10月1日まで)

<追記>2022年11月3日
 
 新型コロナウイルスの新規感染者数は減少ペースが弱まり,再び増加に転じそうな感じです。再増加に転じているのかどうかは不明ですが,何とも不気味です。今後を素人的に予想すると,一定の幅で増減しながら,再び前回を大きく上回るピークに向かって増加を始めそうな気がします。勿論,一定の幅で増減しながら,順調に減少する可能性もないとはいいませんが。すぐに減少に転じる可能性及びすぐに明確な増加局面になる可能性は低いような気がしています。いずれにしても,新型コロナウイルスの新規感染者数の変化を注意深く見守りながら状況判断してリスクをとる必要があると思います。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年11月1日まで)

<追記>2022年12月3日

新型コロナウイルスの新規感染者数は減少から再び増加に転じています。新型コロナウイルスの新規感染者数のグラフでは第7の谷を通過して,第8のピークへと向かう途中にあります。第7の谷は,相対的な深さもそれなりにありますが,絶対的な高さではこれまでの最高です。ウイルスの性質やワクチンなどの生物学的・医学的視点を無視して感染が始まった初期から新型コロナウイルスの新規感染者数の変化のグラフを眺めてみると,新規感染者数は明らかな増加傾向が続いていることになります。しかし,新型コロナウイルスの新規感染者数がこのまま増加傾向を継続するとは私は考えていません。いつも楽観論で申し訳ありませんが,以下の理由でそう遠くない将来にこのパンデミックが収束に向かうのではないかと考えます。
① 新型コロナウイルスの新規感染者数の増加速度が遅くなりつつあるように見える。
 (反論;この傾向は第3のピークへ向かう途中でも同様なことが見られた。)
② 新型コロナウイルスの累計感染者数の人口に対する割合が最も高い沖縄県では,現時点での感染者数の大きな増加は見られていない。(収束傾向を示している他国と類似)
③ 新規感染者数の多い期間は,確認されていない感染者が多数存在することが予想され,累計感染者数は実際にはもっと多いことが予想される。
④ オミクロン株の変異株は多数報告されているが,感染力が強い別のタイプの新しい株は報告されていない。
 しかし,楽観論の私も,「野外ではマスクは外して良い。」とか,「給食の時には友達とお話をしてもよいです。」などとは思いませんね。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2022年12月1日まで)

<追記>2023年1月3日
 新型コロナウイルスの新規感染者数のグラフでは,その数がピークアウトに近づいているように思われます。しかし,年末・年始から成人式の連休と続きますので,新規感染者数が正確に把握できているかは疑問が残ります。この期間の増減については,1ヶ月程度経過した後に推測するのがよいと思います。この1ヶ月の傾向で気になることは,死者数の増加とそのペースです。死亡率の低下が叫ばれているなか,1日当たりの死者数が最高値を更新しました。そして,死者数の変化を示したグラフでは,新規感染者数と同じようなペースで増加しているように見えます。今までは,1日当たりの死者数は新規感染者数の増加にやや後れて増加し,やや後れてピークアウトしていました。死者数の変化を示したグラフが,目盛りのオーダーによる錯覚であれば,その数は新たな,悲しい最高値を更新してしまうことになります。1日当たりの死者数は,新規感染者数に比べると遥かに正確な値です。この死者数の変化が何を意味しているのかは,今後の変化を十分に見極めるまでわかりません。
 専門家によれば,新型コロナウイルスの新規感染者数の今後の変化を予想することは極めて難しいとのことです。その理由の1つとして,現在オミクロン株の複数の変異型が国内で存在することをあげています。オミクロン株のどの変異型が今後国内で優位に増殖していくかは予想が難しいとのことでした。個人的には,新しくオミクロン株以外の変異株が報告されていないことに安堵感を覚えます。
 世界に目を向けると,「ゼロコロナ政策」に破綻した中国が「withコロナ政策」へと大きく舵をとりました。その結果,多くの専門家が予想していたように,新規感染者及び死者が急増しているようです。ブルームバーグによれば,「(現地時間2022年12月28日)中国を出発してイタリア・ミラノに向かった飛行機2便の乗客のうちおよそ半分が新型コロナウイルス感染症の検査で陽性だった。」とのことです。このニュースは様々な解釈ができると思いますが,私は中国在住の方で少なくとも半数は新型コロナウイルスに感染した経験をもっているだろうと予想します。多くの国が中国経由の入国者に対して検査を実施すると発表していますが,今までと同様に水際でくい止めることはできるとは考えられません。これらの一連の動きで,何が起ころうとしているのでしょうか。最悪のシナリオは,この中国の大流行でまた新たな変異株が現れ再び世界中に伝播してしまうというものです。これではパンデミックが収束することはありません。しかし,いつも楽観論で申し訳ありませんが,私は新型コロナウイルスにとっての最大の資源である中国で爆発的な感染拡大が起こることで,このパンデミックが概ね収束に向かうと考えています。予言者風の言い方をすれば,「○○に始まり,○○で終わる。」ですかね。3月下旬頃までには落ち着くと予想しています。しかし,油断は禁物です。当分の間は,宴会には参加しない方が身のためだと思います。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2023年1月1日まで)

<追記>2023年2月3日
 幸いなことに,新型コロナウイルスの新規感染者数は,グラフでは明らかな減少傾向が見て取れます。グラフの形状から,新型コロナウイルスの新規感染者数は第7の谷及び第6の谷を下に抜けてくれると思われます。一方,新型コロナウイルスの感染による死亡者数は,残念ながら最高記録を更新してしまいました。死亡率の低下を声高に主張する方々には,「死亡率が下がっているにも関わらず死亡者数が増加しているのは,感染者数の測定が間違っているのではないか。」との意見もあります。個人的には,第7のピーク以降は感染者の発表が実際の数よりかなり少なめになっていると感じていますが,死者数の増加を十分に説明しているとは思いません。死者数の増加の理由は素人には謎ですね。
 
新型コロナウイルスの感染者数の推移 (2023年2月1日まで)

<追記>2023年3月3日
 新型コロナウイルスの新規感染者数は,前月の予想通り第7の谷及び第6の谷を下に抜けてくれました。問題は,このペースでの感染者数の減少がどこまで続くかです。私は希望的観測として,3月下旬までには落ち着くと予想していましたが,やや,あまかったですね。この予想が大きくははずれないことを祈っています。取り敢えず,3月いっぱいは宴会をパスします。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2023年3月1日まで)

<追記>2023年4月3日
 新型コロナウイルスの新規感染者数は,下げ止まりの兆候が見え始めてきました。今後どうなるかは,誰もわかりませんから不気味です。私も,4月の宴会をどうするかは,このグラフの変化で考えてみようと思います。

新型コロナウイルスの感染者数の推移(2023年4月1日まで)

<追記>2023年5月3日
 新型コロナウイルスの新規感染者数は,下げ止まりから上昇に転じています。7日移動平均の近似曲線は,明確に30日の移動平均の近似曲線を上に抜けました。これは,明らかな上昇局面であることを意味しています。しかし,今回の上昇は今までの上昇局面とは明らかに違っています。これまでの上昇局面では,第2の谷から第3のピークへと少しだけ似ているきもします。時間軸を少し長めにとったら類似性が増す可能性もありますので,これが予想される最悪に近いシナリオだと考えます。楽観論の私は,この緩やかな新規感染者数の上昇が急激な上昇に変わり,前回のピークを越えてしまうようなことはないのではないかと予想しています。なお,楽観論で必要以上にリスクをとるのは止めた方がいいと思います。「みんなでマスクをはずそう。」などは無責任な発言だと思いますね。

新型コロナウイルスの感染者数の推移 (2023年5月1日まで)

ページ先頭へ

Ⅼ10-4 アケビの仲間の花形成をABCモデルで説明してみよう

 日本に分布しているアケビの仲間は,アケビ ,ミツバアケビ,ムベの3種だそうで,福岡県内でも容易に確認できます。いずれも,雌雄異花で同じ栄養体に雄花と雌花とを形成します。ネットや文献などの情報から,雄花と雌花との構造を整理してみると以下のようになります。

雄花  がく片,花弁(なし),おしべ,         めしべ(なし,ムベでは痕跡あり)
雌花  がく片,花弁(なし),おしべ(なし,ムベでは痕跡あり), めしべ(複数)

 雄花にめしべの痕跡的な構造が見られることは珍しくありませんが,雌花でめしべが複数あることは珍しいのではないかと思います。花弁は形成されませんので,アケビの仲間はシロイヌナズナの領域2は欠落していることになります。そこで,アケビの仲間もシロイヌナズナ同様に花形成に関する遺伝子(群)A~Cが存在していて,それらの遺伝子(群)の相互作用により雄花と雌花とが形成されると考えて作業仮説を建ててみましょう。

(作業仮説の例;アケビ及びミツバアケビの場合)(むしょく)
 シロイヌナズナと比較しながら,アケビに両性花があると仮定して予想される花形成を下記に示します。

外側から    領域1     領域2     領域3     領域4(中心部)
シロイヌナズナ 遺伝子Aのみ  遺伝子A・B  遺伝子B・C  遺伝子Cのみ
         ↓        ↓       ↓        ↓
        がく片      花弁      おしべ      めしべ 

アケビ・   遺伝子Aのみ  領域2なし   遺伝子B・C  遺伝子Cのみ
 ミツバアケビ  ↓                ↓       ↓
架空の両性花  がく片     花弁なし    おしべ     めしべ     
   雄花     がく片     花弁なし    おしべ     めしべなし
   雌花   がく片     花弁なし    おしべなし   めしべ

 前提条件は,アケビ・ミツバアケビは花弁が存在しないことから領域2は存在しないことにします。同じ株に雄花と雌花が形成されることから,架空の両性花を仮定すると,アケビの仲間にも遺伝子A~Cが存在することになります。
 実在のアケビ・ミツバアケビについて考えると,雄花では領域4では遺伝子Cの働きが抑えられ,雌花では領域3の遺伝子Bの働きが抑制されていることになります。正常なシロイヌナズナの花形成でも,働いている遺伝子は領域(場)によって異なっていますので,働く遺伝子を領域(場)でコントロールする仕組みがあることになります。アケビ・ミツバアケビでは,領域3で,遺伝子Bが働くと領域4では遺伝子Cの働きが抑制されめしべは形成されず,遺伝子Bが働かないと領域3と領域4で遺伝子Cが働いて複数のめしべが形成されると思われます。領域3の遺伝子Bの働きにonとoffのスイッチがあり,onのときは,領域3で遺伝子B・Cが働き,同時に領域4での遺伝子Cの働きを抑制する。また,offのときは,領域3・4で遺伝子Cのみが働くと考えると,アケビの仲間の雄花と雌花との形成が説明できているように思われます。

 ABCモデルが多くの顕花植物で成り立つかどうかは不明ですが,多くの種で類似したシステムはあるでしょう。そのような場合,ABCモデルに新たな抑制システムなどを加味すれば,他の雌雄異花や雌雄異株などの花形成も説明できそうな気がします。なお,新たな花芽形成システムが発見される可能性もあるでしょう。
 
 作業仮説を建てるのは自由ですので,みなさんも色々な植物の花形成をABCモデルで考えてみてください。

(別解;ムベの場合)
 アケビの仲間で,ムベの花が一番普通の花に近い構造をしている気がします。私が小学校のときは,チューリップの6枚の花びらのように見える構造は,外側の3枚ががく片で内側の3枚が花びらであると習いました。大学では,がく片と花びら(花弁)を合わせて花被片という言い方をするのを聞いたことがあるようです。ユリの仲間のように,花びらとがく片の位置にある構造に大差がない場合には花被片という言葉が使用されているようですが,アケビの仲間ではがく片という言葉が一般に使用されているようです。よく参考にさせていただく「三河の植物観察」では「花弁状萼(がく)片」という言葉も使用されています。言葉にこだわってもきりがありませんので,ここでは昭和の小学校の理屈でムベの花形成の仕組みを,ABCモデルで説明してみましょう。
 前の説明の展開に従って各領域と各遺伝子の働きを整理すると,以下のようにすっきりします。

外側から    領域1    領域2     領域3     領域4(中心部)
ムベ    遺伝子Aのみ  遺伝子A・B  遺伝子B・C   遺伝子Cのみ
         ↓      ↓        ↓         ↓
架空の両性花  がく片     花弁      おしべ       めしべ     
    雄花  がく片     花弁      おしべ       めしべなし(未発達)
    雌花  がく片     花弁      おしべなし(未発達)めしべ

 昭和の小学校の理屈に従って整理すると,領域1及び領域2は通常の花と同じになり,問題は,領域3及び領域4での遺伝子の働きということになります。前と同じ説明も可能ですが,別解としましたので,別の説明を試みました。
 アケビの仲間は,雌花は雄花に比べて数が非常に少なく,上手く探さないと見つかりません。この事実をABCモデルの遺伝子で説明すると,開花している株の花の中で,遺伝子Cのみが単独で働いているケースは極めて少ないという解釈ができます。ですから,多くの花で,領域4で遺伝子Cの働きが制限され,結果的に雄花を形成することになります。稀に,領域4で遺伝子Cのみが十分に働いた場合のみ,領域3で遺伝子Bの働きは抑えられ,雌花を形成することができます。
 この現象を説明するのに,遺伝子A~Cが働く時に「それぞれの遺伝子は花芽の外側から内側へ向かって遺伝子A~Cの順で働きを開始し,通常は領域3では遺伝子Bが遺伝子Cより先に働きを開始し領域4に到達すると遺伝子Cの働きを抑制する。稀に,領域3で遺伝子Cが遺伝子Bより先に働き始めると遺伝子Bの働きを抑制する。」という仮説を考えてみました。この仮説に,雌花を形成する条件に「栄養状態のよい株では」などを付け加えれば現状を説明できてはいることになります。

 作業仮説を建てるのは自由ですので,みなさんも独自の仮説を考えてみてください。まだ,いくつでも考えられそうです。

<追記>
 日生教の2023年大阪大会で東京の先生から以下の情報をいただきましたので紹介します。なお, 野生のアケビ・ムベ・ミツバアケビの染色体数は,2n=32とされています。

「100年に及ぶ植物の性の謎解き明かし農業に生かす」
岡山大学 環境生命科学学域 研究教授 赤木 剛
https://www.jst.go.jp/pr/jst-news/backnumber/2022/202210/pdf/2022_10_p8-11.pdf



ページ先頭へ

Ⅼ10-5 ヤマノイモの不思議を楽しもう

 退職後,庭木を大きく伐採することなく隙間で食料を調達できるように努力しています。手がかからないのがヤマノイモ,ミョウガ,ミツバ及びツワブキです。これらは草取りの時に取りすぎないように注意すれば,必ず季節の実りを確実に与えてくれます。草取りの視点で最も厄介なのがヤマノイモです。ちょっと油断をすると,もう素手では抜けません。はさみで切るといつの間にかまた伸びています。厄介なことには,ムカゴをたくさん作って,芽が何処からでも出てきます。そこで,発想の転換をして自宅に大きな迷惑がかからない程度に自由に繁殖させ,秋の実りをいただくことにしました。これが,私がヤマノイモと付き合うようになったきっかけです。
 野外での観察を科学的なデータだと言える程度まで積み上げることは極めて困難です。例えば,私はある論文で雌株を得る方法として「確度の高い方法は雌株のむかごの発芽から始めることだと考えている。」という言い回しをしました。「雌株の栄養生殖で生じたムカゴから雌株ができるのは当然で,何でこのような回りくどい表現をするのか。」という声は聞こえても,「何ていい加減なことを言うんだ。そんなことはやってみないとわからないだろうが。」という批判は出てきにくい気がします。私自身もこのことに関する正解は知らないわけです。学問の世界に身を置いていない者としては,市販されている文献や簡単なインターネット検索以外に情報を得る手段はもちません。もしかしたら極めて稀な確率で「ヤマノイモのムカゴから形成される栄養体の性と親の栄養体の性との関係について」などというテーマの研究論文があるかもしれません。このテーマを学生に進めたら,「先生は私を潰すつもりですか。」と激怒されることでしょう。趣味で研究するのならともかく,論文にまとめるまでの時間と労働コストがかかり過ぎます。逆に,趣味なら取り組むことが少しはできるでしょう。科学論文でよく批判の対象となる「単例報告」に近いものは可能かもしれません。自宅庭だと上手くいっても5年間に1~2個のムカゴからの花を観察できる程度でしょうか。要は楽しめばいいと思います。

 ここのコーナーは,観察しながら仮説を建てるのを楽しもうというものです。答えはまだ私個人の知らないものも用意します。

テーマ1 栄養生殖で生じたムカゴの性は親と同じだろうか?
    (ヤマノイモの性は遺伝的に決定されているかどうか。)

 

 これは序文で触れたテーマです。ヤマノイモには雄株と雌株とがあり,それぞれにムカゴが形成されます。形成されたムカゴは形態上の相違はありませんので,このテーマの実験・観察には雄株由来のムカゴと雌株由来のムカゴを正確に区別して採取する必要があります。一見簡単そうですが,野外で雌雄のムカゴを正確に区別して採取するには細心の注意が必要です。というのは,野外では雌花の近くで雄花が咲いている風景を少なからず見かけるからです。また,発芽後少なくとも2~3年は,花形成は行われずムカゴ形成のみを行いますので,雌花の近くから採取したムカゴに雄株のムカゴが紛れ込む可能性もあります。ですから,ムカゴの採取では,花とムカゴとのつながりが確認できる場所を選ぶ必要があります。ちなみに,私は2020年秋に自宅で採取した雌株からのムカゴの栽培を開始してみました。

<経過報告>2022年4月23日
 2021年,栽培した2つのむかごから形成された栄養体は無事に成長しましたが,予想通りむかごのみを形成し,花はつけませんでした。2つのむかごからの栄養体を栽培している植木鉢では,写真のように無事に2年目の成長を開始しました。

<経過報告>2022年9月10日
 このクレイジーな実験・観察の試みは意外に速い結末でした。何と2株とも2年目に雌花を形成したのです。雌株から形成されたムカゴが雌花をつけるのはあたりまえだと思われます。しかし,自宅で雌花を確認できたのは,ヤマノイモの草刈りを止めてから4年目であったのを考えると,非常に栽培開始から雌花形成までの時間が短かったことになります。そこで,両者の生育条件を比較すると,庭で自由に繁殖している株は何も手を加えていないのに対し,栽培した株は葉が展開するためのネットがあり,2年目に施肥を行いました。2年目の施肥が花芽形成に大きな役割をはたしたような気がしています。「栄養生殖で生じたムカゴの性は親と同じだろうか?」というテーマをそれなりに努力すれば,一定数のデータはとれそうですが,これを十分な量集めるのはやはりクレイジーでしょう。
(栽培方法の確認)
① 雌株からできるだけ無傷で大きいムカゴを採取する。
② 春に容器に入れて発芽させ,一定の大きさになったら,底の深い植木鉢に移して野外で栽培する。
③ 葉が十分に展開できるようにネットを張り,定期的に施肥を行う。

 この栽培方法で,ムカゴから栽培された株の花芽形成までの期間が短くなるかどうか,今後確認していきたいと思います。

<経過報告>2023年3月18日
 次の観察に移行するために,ヤマノイモを栽培していた植木鉢の土を全部取り出しました。写真は2年目に形成された担根体の様子です。植木鉢の底まで成長した担根体が横に伸びている様子がわかります。

<経過報告>2024年8月3日
 2023年春に植木鉢移植した雌株から採取したむかごは順調に発芽・成長して,2024年7月に雌花を形成しました。
 これまでの観察をまとめると,発芽・成長を観察に使用しむかごは合計3個で,すべて雌株由来のもので,3つとも雌花を形成したことになります。





ページ先頭へ

テーマ2 ヤマノイモの担根体って何だろう?
     (根・茎・葉の意味も考えてみよう。)

 

 植物の器官は栄養器官の根・茎・葉及び生殖器官の花に分類されています。ヤマノイモの「いも」は「担根体」と呼ばれ根でも茎でもないという説明を初めて見たとき,「なぜだろうか?」と私も素朴に思いました。そこで,根・茎・葉の違いって何だろうかと考えてみました。野外でそのようなことが話題になると持ち前のいい加減力で「昔,植物の器官を無理やりに根・茎・葉のどれかに分けたからですよ。だから,ウキクサの浮葉のようにみえる器官に葉状体という名称があるんですよ・・・」と説明しています。
 維管束植物への進化を考えると,植物細胞はまず,線状の群体から面状の構造へ進化し,やがて陸上で重力に対抗して立体的に立ち上がります。植物の組織系は表皮系・維管束系・基本組織系に分類されています。私はこれらを「表面・すじ・その他に分類しています。」と説明しています。「すじ」とは,葉や茎を食べる植物で硬い部分で,概ねその部分が維管束です。維管束は水や養分の通路として働くだけではなく,植物体を支持する役割の一部も担っているのです。
 根・茎・葉の区別を考えるとき,小学校の頃は,根は地下にあり養分を吸収し,茎は丸くて地上部で植物体を支持し,葉は平面的で主に光合成をする器官と習ってきたのではないかと思います。維管束のことを学習すると,実は典型的な根・茎・葉では維管束の配列が異なっていることを知ります。そして,ジャガイモの芋は茎(塊茎)でサツマイモの芋は根(塊根)などというややこしい話が出てきます。この類のことを暗記するのにどれ程の価値があるのかはわかりませんが,顕微鏡の世界の議論には価値があると思います。
ではヤマノイモの「担根体」について考えてみます。「担根体」の多くは地下部から伸びている茎の下部に形成されています。しかし,栄養体のつる(茎)の一部が地下で根のような構造を形成しその末端部に「担根体」を形成する場合もあります。この根のような構造を顕微鏡で観察して茎と同じ構造をしているかは確認したことが私はありません。維管束の配列で根・茎・葉の区別を議論するのであれば,「担根体」及びそこにつながる根のような構造を丁寧に顕微鏡で調べる必要があります。しかし,観察には解像力の高い光学顕微鏡や切片作成や染色などの技術が必要になります。そこで,ここでは肉眼やルーペ程度でも観察可能な範囲で考えてみます。

[検討の方法]
 芋状に肥大成長する他の構造物と比較して芋状の構造からどのような構造が分化していくかを比較してみる(植物の発生という視点)。その場合,ジャガイモの芋(塊茎)とヤマノイモのムカゴ(根茎)とは茎としての性質を示し,サツマイモの芋(塊根)は根としての性質を示しているものとして検討する。

 この手法では,最初の段階では特別な道具を必要としません。勿論,植物の器官形成を細胞の分化していく過程として捉え,微細な世界に発展させることも可能です。私がこれまでに観察したことをまとめると以下のようになります。

サツマイモの芋(塊根) 芋には上下の軸があり,茎と根とは明らかに別の場所から形成される。
ヤマノイモのムカゴ(根茎) 茎と根とを形成することができる原基(1~2個)と根のみを形成する原基(多数)がある。
ジャガイモの芋(塊茎) 芋には上下の軸はなく,「新芽」と言われる原基(多数)からは茎と根とを形成することができる。
ヤマノイモの担根体 芋の先端部からは茎と根とが,その他の部分からは根のみが形成されている。

 これらの栄養生殖を比較してみて気づくことは,ヤマノイモのムカゴ(根茎)からの形態形成はサツマイモの芋(塊根)とジャガイモの芋(塊茎)との中間的な特徴を示していることです。そして,これは当たり前のことかもしれませんが,ヤマノイモの担根体からの形態形成はヤマノイモのムカゴ(根茎)からの形態形成によく似た特徴を示しています。この両者の類似性のみで決論を出すと,「ヤマノイモの担根体は茎としての性質をもっている。」ということになります。

 1つの視点からだけみて決論を出すのは,科学的には間違った態度です。皆さんも他の様々な視点・論点で考えてみてください。また,私も知らないのですが,文献検索が得意な方は,「なぜ担根体は根でも茎でもないと言われているのか?」という理由(論拠)を調べてみてください。

<参考>
 長田武正先生の「野草図鑑①つる植物の巻」のヤマノイモの説明で担根体についての以下のような説明があります。

根体・・・・・・ヤマノイモやナガイモの食用部は根ではなく本当の地下茎でもない。毎年茎の基部にこぶができ,それが地下にのびて肥大したもので,新しいイモと交代しつつ,年々大きくなる。

 これは,明らかに担根体の形成過程に力点をおいた考え方のようです。また,「たん」の漢字が違っていることにも注意してください。

ウィキペディア 地下茎ムカゴ担根体
Ph2 ヤマノイモとその関連情報(H,S)

<私見>
 個人的には,無理に植物の体を根・茎・葉に分けて,「花は葉を原型に形成される」などという説明には無理があるような気がしています。それより,植物の器官形成を細胞の分化していく過程(発生)として捉えた方が自然なのではないかと思います。勿論,基本的な形態やパターンはあると思いますが。

ページ先頭へ


Ⅼ10-6 ヤブカンゾウの秘密を探ってみよう

 

 ヤブカンゾウは,山野で普通に見かける旧ユリ科の植物です。生物の分類に分子的な観点が加味されるようになって,植物の分類体系もかなりの変貌をとげています。ユリ科も複数の科に区分されているようです。系統分類は分類の基準となるものが,進化の道筋にそった妥当なものであるかどうかが重要なことになりますが,そんなものは「神のみぞ知る」ですので,新しい知見や概念が出現するたびに揺れ動きます。そこで私は,無視もできませんので,いつも後塵を拝しながら,興味感心のある場所をつまみ食いをしています。ヤブカンゾウに関して,いつも参考にさせていただいている「三河の植物観察」を以下に引用します。

ヤブカンゾウ 藪萓草 Hemerocallis fulva L. var. kwanso Regel.
ツルボラン科  Asphodelaceae ワスレグサ属
分 布 在来種 北海道,本州,四国,九州,朝鮮,日本
若葉は食用になり,丈夫で育てやすく,庭によく植えられている。3倍体であるため,種子はできない。ヤブカンゾウは日本ではなぜか中国原産といわれ,中国では逆に日本,朝鮮が原産ではないかといわれている。ヤブカンゾウは中国には自生せず,母種のホンカンゾウ が自生する。ススキノキ科は旧ユリ科から分割された。APGⅣ(2016年)でススキノキ科(Xanthorrhoeaceae)からツルボラン科 (Asphodelaceae) に改められた。
 根は紡錘状に膨らむ。葉は長さ40~60㎝,幅2~5㎝。花は直径約8㎝。花冠の筒部が長さ約2㎝と短く,花被片は2重,長さ約7㎝。雄しべと雌しべが弁化して,八重になるのが特徴。小花柄は長さ6~10㎜。2n=33(注;高校では,3n=33と記す。)
ホンカンゾウは中国に自生する母種の var. fulva。中国名は萱草 xuan cao といい,花は一重である。花冠の筒部が短く,長さ2~3㎝。3倍体2n=33。
ノカンゾウは花が一重,葉が細く,やや湿った場所を好む。花冠の筒部が細く長さ3~4㎝と長い。2n=22。
ハマカンゾウも花が一重,ノカンゾウとよく似ている。葉の質が厚く,冬にも枯れないで残る。2n=22。

ノカンゾウ 野萓草 Hemerocallis fulva var. angustifolia Baker
ツルボラン科  Asphodelaceae ワスレグサ属
分 布 在来種 本州,四国,九州,沖縄,朝鮮
花が八重のヤブカンゾウより全体に小型で,やや湿った場所を好む。日本,朝鮮に自生し,中国のものは栽培品である。
 葉は幅1~1.5㎝。花柄は長さ3~5㎜。花は一重で,直径約7㎝。花冠の筒部は長さ(2)3~4㎝,花被片は長さ5~11㎝,6個。外花被片の幅0.5~2㎝,内花被片はやや長く,幅1~2.5㎝。花の色は変化が多く,紅色が強いものはベニカンゾウとも呼ばれる。果実は長さ2~2.5㎝。2n=22。
 
参考
花被片・・・ユリの花のように,花びらとがくとが形態的に区別がみられない植物でよく用いられる,がく(外花被片)と花びら(内花被片)の総称。
var.・・・変種(種より小さな分類単位,種,亜種,変種,品種の順。)につけられた学名

疑問1 ヤブカンゾウは外来種か在来種か?
 ネットでヤブカンゾウを検索すると殆ど中国原産と記載されています。しかし,「三河の植物」にはあえて在来種と記載されています。皆さんはどう思いますか。私は在来種を支持します。勿論,正解は不明ですが,ヤブカンゾウが中国で自生していないのであれば,在来種の方に分があると思われます。ではなぜ中国原産と言われているのでしょうか。その原因の1つが,同一の資料からの引用だと思います。1つの意見を多数の人が引用したのであれば,何となく真実のような印象をあたえながら広まります。もう1つは,ヤブカンゾウが3倍体で,種子が形成されないということです。誰かが栄養体を植えなければそこには存在しないからです。当然人間が関係しています。この誰かでよく登場するのが「弘法大師」(空海)です。「弘法大師」(空海)が中国から持ち込んだという話は,「中には本当の話もあるのでは?」と言いたくなるぐらいたくさんあると聞きます。3倍体でよく知られているものに,バナナ・セイヨウタンポポ・ヒガンバナ・ニホンスイセン・シャガなどがあります。ヒガンバナ・ニホンスイセン・シャガについては,いずれも中国が関係しているようです。ヤブカンゾウも中国由来と言われることに,何の違和感もないでしょう。
(注意)現在,全産地とされている中国にヤブカンゾウが自生していないという理由だけでは,中国起源を完全に否定することはできません。ヤブカンゾウが中国で誕生した後に朝鮮半島から日本に移入され,その後中国では絶滅した可能性もないとは言い切れません。

疑問2 ヤブカンゾウはどのようにして生まれたか?
 人工的に作られた3倍体の作物に種なしスイカがあります。普通のスイカの種子(2倍体)の種子を蒔き,発芽した直後に分裂組織にコルヒチン処理を行います。コルヒチンは細胞分裂を阻害するので,4倍体になります。そのまま,成長するとやがて成熟し花を形成します。この花のめしべに2倍体の花粉を授粉すると3倍体の種子ができます。この3倍体の種子を蒔いて育てると減数分裂が上手くいかないので種子はできないという仕組みです。
種なしスイカの作り方からわかることは,分裂組織で4倍体が形成されれば,3倍体の種子が自然の流れの中でもできるということです。
 それでは,4倍体の形成される仕組みを考えてみましょう。ヒントは種なしスイカの作り方で,4倍体を形成する仕組みです。分裂組織の細胞をコルヒチン処理すると,細胞分裂時の紡錘糸の形成が阻害され,細胞周期は分裂期で停止します。コルヒチンを取り除くと細胞は分裂を再開するのではなく,凝縮していた染色体は元の状態に戻り,やがてDNA合成を再開し分裂期へと進んでいきます。結果的にDNAの複製を2回連続で行うことになるため,DNAが通常の細胞の2倍になり,染色体数が倍加することになる訳です。自然界には,多くの3倍体が存在しています。このことは,自然界でも結果的にDNAの複製が2回連続で行われることが少なからずあることを強く示唆しています。
 自然界で4倍体が形成される仕組みについての研究に関する知見を私は全く持ちませんので,この先は私的な考察になります。分裂組織で結果的にDNAの複製が2回連続で行われる原因について以下のものがあると思います。
① 暴風・被食・放射線などによる物理的な損傷
② 大気中や土壌中の化学物質の影響
③ 細菌やウイルスなどの病原体の感染
④ 細胞内の遺伝子システムに内在している要素
以上の要素が複数関係することもあると思います。いずれにせよ自然界で4倍体が形成されることは珍しくはないと考えますので,

仮説1 ヤブカンゾウは,起源となる2倍体の植物で4倍体が形成され,その4倍体ともとの2倍体とが交雑した結果として生じた3倍体に由来する。

をメイン仮説とします。勿論,私も仮説1以外の方法で3倍体が生まれることもあるのではないかと考えていますので,皆さんも別の仮説を考えてみてください。

疑問3 ヤブカンゾウはどこで誕生したか?
 ヤブカンゾウが中国原産でないとすれば,どこで生まれたのでしょうか。可能性として考えられる仮説に,以下のものがあります。

仮説2 ヤブカンゾウは朝鮮半島か日本かのどこか一カ所で誕生し,人間活動の中で広がっていった。
仮説3 ヤブカンゾウは朝鮮半島や日本の複数の場所で誕生し,人間活動の中で広がっていった。

 仮説2が正しいとすれば,日本より朝鮮半島のどこか一カ所を推す人が多い気がします。しかし,私は仮説3の方が,可能性は高いのではないかと思います。その論拠は,ヤブカンゾウの花の変異です。前述の「三河の植物」のヤブカンゾウの花の写真にはおしべが写っていません。これは,おしべがあるかないかは,外からは観察できない構造になっていることになります。皆さんもヤブカンゾウの花をネットで検索してみてください。おしべの写り方に注目すると,実に様々な変異があることがわかるでしょう。園芸品種は人間の好みによって変異が選択的に保存されやすいとして,人為選択の例にあげられています。皆さんは,ヤブカンゾウの花の変異をわざわざ選択して,好みのものを野原に植えたと思いますか。


ヤブカンゾウの花を分解してみよう。

 写真は自宅のヤブカンゾウの花とその花を分解したときの様子です。外側から内側へ確認できた構造を並べてみます。
 花被片  6
 おしべ 13 (長;4,中;5,小;6)
 不明   2 (膜状)
 めしべ  1
 隣の花(写真右端)とは花被片の数など少し様子が異なりますが,花被片の中心に花柄のような構造があり,再びおしべ(花弁のように変化したものも含む)などの構成になっていることは共通のようです。1つの株でも,多少の変異が観察されるようです。このことは,ヤブカンゾウの花に変異が多いのは,花形成自体が不安定なためにみられる可能性もあることを示唆しています。何処までが遺伝的な変異で,どの程度1つの株の花形成に変異が見られるのかは観察数を増やしていく必要があります。野外で観察するときは,成長の良いものを選び,できれば複数の花が咲いているものを選んだ方がいいのではないかと思います。

 ヤブカンゾウの起源の問題は,多額の資金を投入して,十分なサンプルを集め,栽培と分子的な遺伝子解析を行えば,ほぼ解決できそうな問題です。しかし,現実的には,アマチュアとして野外で観察を楽しんだ方が良さそうですね。

ページ先頭へ

Ⅼ10-7 テッポウユリのむかご?木子(きご)?について

1 テッポウユリのむかご?木子(きご)?との出会い

 仏花としてユリがほしいとつれあいに言われましたので,ユリの栽培に挑戦しようと思いました。最初に検討したのが,野外でも簡単に種子が入手できるタカサゴユリでした。しかし,外来種を自宅で積極的に繁殖させるのは,さすがに気が引けましたので,在来種のテッポウユリの球根を2つホームセンターで手に入れました。
 最初の2021年は,2株とも順調に育ち,ともに3つずつ花を咲かせました。しかし,2株とも子房は途中で成長を止め脱落してしまいました。残念な気持ちで栽培を続けていると,ユリの根元付近に写真で示したような球状の構造がいつの間にか形成されていました。「テッポウユリにもむかごができる?」と思い,いつも参考にさせていただいている「三河の植物観察」で調べてみました。オニユリの説明で,「葉は互生し,長さ5~18㎝,幅0.5~1.5㎝の披針形で,柄がなく,基部に黒紫色の珠芽(むかご)を付ける。日本で珠芽を付けるのはこのオニユリだけである。」と記載されています。この説明は手持ちの図鑑類や私の記憶とも一致しています。そこで,まず疑うのが,「購入したテッポウユリは本物?」ということです。園芸品種には,交雑種もあるかもしれません。しかし,私の同定能力の範囲ではテッポウユリだろうとしか言えません。園芸品種ですから多少の変異はあるかもしれませんが・・・。そこで,「テッポウユリ,むかご」でネット検索をしてみました。「開花後のユリの茎に沢山の芽?こぶ?」(2007年)という記事を見つけました。その記事の中で出会った言葉が「木子」です。ウィキペディアなどには,「ユリの一部などで茎の下部の節のえき芽が肥大してできる小鱗茎。」と説明されています。この茎の下部を広い意味で解釈すると,今回観察された栄養体は,「木子」ということになります。ネットの写真でも地上部のものをテッポウユリの「木子」として紹介されているものもありました。しかし,「木子」というのは本来地下部に形成されるものをいっているような記載もあります。テッポウユリの地下部の「木子」として紹介されているものの写真は,別物のようにみえます。自宅にあるテッポウユリの地下部も一度確認する必要があるでしょう。(後日追記予定)
 ここで,自分流に言葉を整理すると,園芸関係でなければ「木子」という言葉は使用する必要がないと思いますので,地上部にある珠芽(しゅが),地下部にある珠芽(しゅが)と区別することにします。珠芽は「むかご」とも読ませますが,ここでは「しゅが」と読むことにします。ネット情報を感覚的に解釈すると,「地上部での珠芽の形成は,テッポウユリでは常に起こることでもないが,ごく稀な現象でもない。」と捉えておいてそう大きな問題はなさそうです。そこで,「今年どうして自宅のテッポウユリの地上部に沢山の珠芽が形成されたのか。」というテーマを設定して,仮説を建ててみることにします。

仮説1 栽培したテッポウユリは,地上部に珠芽を形成する系統のものである。
     (遺伝的な変異が原因)
仮説2 栽培した株の栄養状態がよかったので,本来地下部に形成される珠芽が地上部にも形成された。
     (栄養状態のみが原因)
仮説3 栄養体の有性生殖が成立しなかったので,種子形成に関する養分が地上部の珠芽形成に使用された。
     (繁殖戦略も関係)

以上の3つの仮説を考えてみましたが,複合的な理由も考えられると思います。皆さんも,近くにテッポウユリを栽培している場所があったら,是非根元付近を観察してみてください。私も,楽しみながら観察と栽培を続けてみようと思います。

<追記>2021年9月30日
 鉢植えのテッポウユリの茎が枯れましたので,地上部の珠芽を分離してプランタに移植しました。根元付近に地下部から伸びてきたと思われる珠芽(木子?)はそのままにして,継続観察してみます。

<追記>2021年10月27日
 地下部から2つ目の珠芽(木子?)が顔を出してきました。なお,別個体の方はまだ地上部の葉が元気なのでそのまま状態で観察を続けいいます。

2 テッポウユリのむかご?木子(きご)?のその後

○  発芽と成長の様子


<追記>2022年1月4日
 大晦日の日,地植えしていた方のテッポウユリの根元付近を見ると新しく葉が出ていました。それも,もう虫に食われています。こんなに早く発芽が進行しているとは考えてもいませんでした。植木鉢に植えた方のテッポウユリには大きな変化はまだないようです。

<追記>2022年4月2日
 1月に発見された他とは雰囲気の異なる芽生えは,2月にはいち早く多数の葉を形成し,3月には非常に太い茎をもつ栄養体であることが判明しました。おそらく倍数体ではないかと思われますが,これはアマチュアには判別できませんので,一応,成長を記録することにしました。比較のため,現時点では一番成長しそうな株1つの記録も併記します。

             特大       大
  植生高        51.8㎝     32.0㎝
  茎の太さ(長径)   23.0㎜      7.5㎜
      (短径)   21.6㎜      6.8㎜
              (2022年3月28日計測

<追記>2022年5月22日
 植生高のみ記載します。
             特大       大
  植生高       130.0㎝     61.2㎝
              (2022年4月28日計測

○ 花芽形成から開花まで

<追記>2022年6月4日
 気がつくと特大株ではいつのまにか花芽が成長を始めていました。特大株はまだ伸長成長も続いています。となりの大きいと思っていた株は頂端部分が枯れていました。
             特大       大   
  植生高       183㎝       62㎝              
              (2022年5月28日計測)

○ 珠芽の再形成から発芽・成長

 <追記>2022年11月19日
 特大株でのみ珠芽が茎上に残りましたので,採取してプランタなどに移植しました。前年に珠芽はあまり成長していませんが,特大株の珠芽がどのように成長するか楽しみです。

2シーズン終了後の地下の様子

<追記>2022年12月17日
 巨大株の根元を掘ってみました。地下部に多くの珠芽(木子・鱗茎・球根)を形成している部分があり,その下にも茎(根?)が伸びています。この下には何もないだろうと思い切断して作業を終えました。しかし,ネットで調べるとこの木子と呼ばれている珠芽の塊の下部に母球と呼ばれる珠芽(鱗茎)があるようでした。後日再び掘り返してみると,残念ながら,球根の一部(新しい茎の先端部など)を傷つけてしまいました。こんなに,大きな球根が形成されているとは考えていませんでした。一応,その母球を埋め戻しましたが,ダメージで次年はどうなるかはわかりません。このような大きな母球がどのような過程で形成されたのかは,全く検討がつきません。最初に球根を移植した場所とは,どう考えても異なる場所に形成されています。また,途中で地上部が枯れてしまった植木鉢に移植した株の根元には母球は形成されていませんでした。

<2022年まとめ>
2022年の観察結果をまとめてみます。
(植木鉢に移植した株)
 前年から放置した状態から,3株が発芽して途中まで成長しましたが,強い風の影響などで倒れ,枯死していまいました。地中には珠芽も残っていませんでした。
(地植えした株)
 前年の茎の周りに多くの珠芽がありましたが,その内の3株が6月までは順調に成長し植生高が60㎝程度になりました。しかし,これらとは別に元の茎から8㎝程離れた場所に成長の様子が異なる新芽が出現して,他とは異なり太く速く成長しました。最終的には植生高は180㎝を超える程度にまでなりました。この巨大株の影響で茎の周りの3株は花を咲かせることなく枯れました。巨大株は7つの花を開花させましたが,前年同様に種子は形成されませんでした。巨大株の地上部付近には前年同様に珠芽が形成され,地下部にも多数の珠芽が形成されていました。更に掘り進むと,大きな母球がいつの間にか形成されています。この母球がどのように形成されたかは不明です。
 次年はこの母球がどのようになるか,分球した多数の珠芽がどのような成長をするかなどを引き続き観察していく予定です。

ページ先頭へ

2023年の成長の記録

○ 年初めの現状の確認

 

<2023年の成長の記録について>
 2023年でテッポウユリの観察は3年目を迎えます。様々なステージにある栄養体を,以下のように整理してみます。
① 2021年に地上部に形成された珠芽をプランタに移植した株の子孫
② 2022年に巨大株の地上部に形成された珠芽をプランタに移植した株
③ 2022年に巨大株の地下部に形成された珠芽で先端部が地上に達して緑色になったものを地植えした株
④ 2022年に巨大株の地下部に形成された珠芽で先端部地上に達せず緑色をなっていないものを地植えした株
⑤ 2022年に巨大株の母球(親球)(先端部を誤って切断)を植え戻した株
⑥ 2022年に巨大株の母球(親球)の切断された先端部をプランタに移植した株

 2023年は以上の株を継続栽培し,観察して行く予定でしたが,残念ながら,諸般の事情により十分な観察ができませんでした。⑥以外は順調に生育し,栄養状態がよいものは開花まで到達しました。しかし,2023年も多くの花があったにも関わらず,種子を形成する個体はありませんでした。開花した時点でのデータを以下に示します。
  開花日   開花時の植生高  開花時の茎の長径  花芽の数   備考
 5月31日   69.5 ㎝      5.65 ㎜      1  地下部の珠芽
 6月 2日   60.0 ㎝      6.50 ㎜      1  地上部の珠芽②?
 6月 2日   49.0 ㎝      4.78 ㎜      1  地上部の珠芽①?
 6月 4日   95.2 ㎝      7.31 ㎜      2  地下部の珠芽
 6月 5日   69.6 ㎝      5.97 ㎜      1  地下部の珠芽  
 6月 5日   83.4 ㎝      9.21 ㎜      2  地下部の珠芽
 6月 7日    65.3 ㎝       5.54 ㎜      1  地下部の珠芽
 6月 9日   173.0 ㎝      19.95 ㎜      6  地下部の母球(親球)⑤
 6月10日   65.2 ㎝      5.39 ㎜      1  地下部の珠芽
 6月13日   120.5 ㎝      11.10 ㎜      3  地下部の珠芽③

(2024年1月27日追記)

2024年の成長の様子とまとめ


 前年は数が増えたことや諸般の事情により十分な記録を残すことができませんでした。しかし,多くの異なる栄養状態の個体を観察することにより,購入したテッポウユリの成長の特性を概ね理解できた気がします。栽培の中で発生した疑問は以下の2つです。
疑問1 栄養体の地上の下部で,珠芽が多数形成される個体がある。
疑問2 通常の個体より不連続に大きな成長をとげるものが現れる。
 まず,疑問1については,栽培しているテッポウユリで栄養状態の良好な個体に普通に観察されたことです。福岡県南部でテッポウユリを栽培してされている方からも同様な情報が得られています。これは,周辺の地域で流通している球根に見られる現象のようです。疑問1について,要は,「流通している品種」の問題か,それとも,「自生地でも同様な現象があるのか?」を確認してみる必要がありそうです。
 次に,疑問2ですが,同様な情報があります。また,自宅で栽培している株の中にも比較的大きな茎を形成しているものが複数あり,不連続に大きいともいい難いようです。





ページ先頭へ

 Ⅼ10-8 タンポポを調べてみよう

 

 タンポポは私たちの身近にある植物です。タンポポの綿毛(果実)を飛ばして遊んだことのない人はいないと思います。しかし,タンポポの花のつくりは学習して始めて理解することになります。タンポポのまわりの花びらのように見える部分(舌状花)が1つ1つ,それぞれ1個の花だと言われても,私は最初非常に受けいれがたいものでした。この私たちが「花」と思う舌状花の集団を全体として「頭花」と呼びます。舌状花を包み込む「ガク」のようにみえる構造を,花の外側ですから特別に「総包(苞)」と呼び,外側の構造を「総包外片」,内側の構造を「総包内片」と呼んでいます。部活動の研究や教科書の野外調査のテーマとして,タンポポが取りあげられるときに必ず耳にする言葉がこの「総包外片」という言葉です。大雑把な言い方をすると,開花時に総包外片が外側に完全に反り返るのが「外来種」,あまり反り返らないのが「在来種」と言われています。みなさんもタンポポを見つけたら,頭花のまわりを確認してみてください。
 八女高校在任中に「タンポポ調査・2010西日本」が実施されていました。イベント好きの同僚が参加したようで,あちこちに出かけて調査していました。在来種のシロバナタンポポは普通にあるのですが,カンサイタンポポなどの黄色系の在来種は筑後では私は見たことがありませんでした。そう簡単に見つからないだろうと静観していると,根性でカンサイタンポポらしいものを見つけてこられました。私も確認で同行すると,私有地の一角に多数のカンサイタンポポが開花していました。周辺を調べると近くの公園でもカンサイタンポポが見つかりました。この話は大御所の宝理信也先生にも伝わり,彼はこの地主さんとお話をされて,この土が以前に岡山県から移入したものであることを聞き出してこられました。タンポポのように綿毛で種子を飛ばす植物は主に風による散布と思われていますが,人間活動も大きく影響しているようです。
 タンポポの記事を載せようと2022年3月に現地を訪れてみると,すっかりと様子が変わっています。当時はやや荒れた感じでしたが,綺麗に整備され新しい芝?がはってありました。代が変わったかもしれません。がっかりしていると,2~3株がかろうじて残っていました。近くの公園では残念ながら発見できませんでした。しかし,4月に同じ場所を訪れると,幸い,ロゼット葉から小さく開花したカンサイタンポポを私有地及び公園の芝生内で確認することができました。(追記;2022年4月9日)
 長年生物部会の会長をされていた吉田博一先生は,「日本はセイヨウタンポポと一括りに呼んでいるからいいけど,西洋では変異種にいちいち名前をつけて区別しているから大変だよ。」と話されていました。遺伝子分析の技術が向上してくると,「日本のセイヨウタンポポは多くの在来種の遺伝子をもっていること」がわかってきます。本来は,交雑は起こらないはずですから,どのようなしくみで遺伝子が加わるのかはそう簡単な話でもないようです。詳しくつっこめば次第に話は難しくなっていきます。ですから,私たちは様々に現れる小さな変異を横目でみながら,「これも一応外来種,ないですねー,黄色の在来種は」などと話ながら楽しめばいいと思います。
かなり前置きが長くなりましたが,最初は「カンサイタンポポ」から紹介します。皆さんが福岡市の舞鶴公園周辺以外でこのタンポポを発見したら,是非,担当の先生や博物館などへ連絡してください。

<メモ>
・外来種タンポポ・・・開花時に総包外片が反り返る。
 例 セイヨウタンポポ・アカミタンポポ

・在来種タンポポ・・・開花時には総包外片はほとんど反り返らない。
 例 カンサイタンポポ・シロバナタンポポ

<参考>

西日本のタンポポの分類と分布(タンポポの種類と見分け方)
https://museum.bunmori.tokushima.jp/ogawa/tanpopo/taxon/

ページ先頭へ

Ⅼ10-9 オオバコを観察してみよう

 

 オオバコと言えば,生態分野では「踏跡群落」の代表格として登場してきます。「群落」の定義はあいまいな感じもしますが,一定の環境下に存在している植物の集団という意味合いで使用されています。ですから,「踏跡群落」とは,ヒトが「よく」通る環境下で形成される植物の集団ということになります。オオバコは「踏跡群落」と一緒に登場してくるので,どうしても打たれ強いイメージが先行して,踏まれてもそう簡単には枯れない強い植物と思われています。これは間違いとは言いませんが,イメージがあまりにも強いので,「踏まれても大丈夫なので,踏跡という場所に適応している。」と拡大解釈されているような気がします。
 学校の中でオオバコを探してみましょう。生徒たちが毎日のようにランニングをしてよく踏み固めている場所では発見されることはまずないと思います。どちらかと言えば,やや湿った靴に泥がくっついてしまうような場所で見つかるでしょう。
 1990年代に野外からトウオオバコを持ち帰ったことがあります。上手く種子まで形成してくれましたので,発芽実験でもやろうかと思い,種子を取り出しました。オオバコの果実は蓋果(がっか)と呼ばれ,果実がほぼ中央から蓋をあけるようにはずれます。そこで,この蓋の部分と種子を分離するために,水につけてみることにしました。結果は,残念なことに殆ど水に浮いてしまいます。おまけに,種子と種子とがべっとりとくっついてしまい,ここで,実験は終了となりました。
 オオバコが,何故踏跡群落の代表選手かを,みなさんもお気づきでしょう。踏まれることにどのように耐えるかも重要ですが,ヒトに踏まれることをどのように利用できるかというもう1つの視点があります。オオバコの学名は「Plantago asiatica L.」です。Plantago は属名でplantaはラテン語で,「足跡,足の裏で運ぶ」という意味だそうです。最後のL.は二名法の生みの親で「分類学の父」と呼ばれたリンネの略号です。何と学名が生まれた18世紀には,オオバコが何かにくっついて運ばれることは知られていたことになります。
 種子を母体から切り離すことを種子散布と呼び,その方法を散布様式と呼びます。すべてのオオバコの種子は,母体から切り離されるときは,概ね重力散布です。多少は風の力も手伝ってくれるでしょう。その後はわかりませんが,一部の種子は,土とともに動物の足などに付着して移動することもあるでしょう。写真の植木鉢に生えてしまった個体は,土とともに移動してきた可能性が強いと思います。
 どれ程踏まれ強いかを試してみました。2個体を毎日熱心に繰り返し踏みつけてみました。写真の個体は,1週間ももたずにどこかへ消えてしまいました。レンガの隙間から顔を出している個体は1週間以上も耐えましたので,私の方が根をあげました。オオバコの成長点(頂端分裂組織)は低い位置にあり,葉も踏まれ強いようです。しかし,成長点を直接繰り返し踏まれると,やはり持ち堪えられないようです。
 このように私たちの身の回りにあるオオバコの分布は,種子の散布様式と栄養体の耐性とで概ね決まっているようです。私がこれまで観察した限りでは,前者の要素の方が身の回りのオオバコの分布により強く関係しているように思いますが,皆さんはいかがですか。


ページ先頭へ